地上波デジタル放送が始まって1年になろうとしている。アナログ周波数変更対策は予定された以上に順調に進められており、視聴可能世帯数も急速に拡大している。ローカル局でも前倒しでデジタル放送を始めるところも多く、一部で相変らずデジタル化見直し論が見られるのとは対照的な展開になっている。
これまで先行してデジタル放送を始めた衛星系に共通して見られた頭痛の種は、まずは視聴してもらうための“受信機”をいかに普及させるかというところにあった。本丸の地上波デジタル放送が始まってみて、明らかに異なる様相を呈しているのは、今回は受信機の方が先行して普及している点でだ。
地上波デジタル放送のチューナーを搭載したデジタルテレビは、夏のボーナス商戦からアテネ五輪、そしてそのままの勢いで冬のボーナス商戦へと、非常に好調な売れ行きを見せている。デジタルテレビ商戦を牽引しているのは薄型テレビだが、大画面でも場所を取らず、デザインも良い点が受け入れられている。
地上波デジタル放送が行われている三大広域圏以外の地域でも、薄型テレビが売れていることからすると、購入の動機は必ずしも地上波デジタル放送の視聴を目的としたものではないだろう。だが、受信機が先行して普及していくという構図は、放送局にとってはウエルカムな話であると考えるべきだ。
スカパーやBSデジタル放送が、まずは視聴できる環境を整えるべく、受信機を普及させるためにどれだけの苦労をしてきたかということを考えれば、地上波デジタル放送は良質なコンテンツを提供することに専念できる。この点で恵まれていると言えるだろう。
もちろん、ローカル局や地方のCATV事業者にとって、デジタル化投資は経営を強く圧迫するものであることは間違いない。ただ、国策としての地上波放送のデジタル化が始まって1年が経とうとする中、もはやデジタル化は不可避となっている。となれば、受信機の普及にまで骨を折らずに済むことは、彼らにとっても大きな救いになると考えられる。
そういう意味では、むしろ相変らず地上波放送のデジタル化計画の見直しを唱える論者や自治体があることについて、筆者は大いに疑問を感じざるを得ない。
ローカルの放送局やCATV局の負担が大きいことは確かだし、国民に対する周知徹底についても、所轄官庁が積極的に取り組んでいると言いがたい。それ故、テレビの買い替えを強いられる国民の負担が懸念されていたのだが、2、3年前とは明らかに様相が変わってきたのは、薄型のデジタルテレビが非常に好調に売れている点であろう。
テレビの買い替え負担を論ずる意味合いは薄れつつある一方である。放送のデジタル化とはリンクしない形で、薄型のデザインであることがユーザーの購買意欲を刺激することになるとは、テレビの買い替え負担が論じられ始めた時期には予想されていなかったからだ。
当初の計画では、三大広域圏以外の地域にあるローカル局のデジタル放送開始期限は、2006年の12月とされていた。しかし、それよりも前倒しでデジタル放送の開始を表明するローカル局が次々と現れてきており、全国レベルでの視聴可能世帯数は、予想を上回るスピードで拡大していくことになりそうだ。
一つには、三大広域圏以外の地域で薄型のデジタルテレビを購入したユーザーからの要望が出始めていることがある。確かに、購入に至った動機は必ずしも「デジタル放送を視聴したい」というものではなかったのかもしれない。しかし、「せっかく買ったのだから」と、視聴者の間では、できれば早く地上波デジタル放送を見てみたいとの声が高まりつつある。
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