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人海戦術によるゲーム開発からいかに転換するか― SIG-GT第3回研究会

» 2004年11月29日 13時48分 公開
[記事提供:RBB TODAY]
RBB Today

 IGDA日本(国際ゲーム開発者協会 日本)は11月27日、ゲームテクノロジー研究会(SIG-GT)の第3回研究会を開催した。講演では、ナムコの基礎技術開発の状況や、ナムコのビジュアルデザイナー金子氏による今後のグラフィックスへの見通しなどについて、発表が行われた。

 冒頭挨拶に立ったIGDA日本の新清士氏は、海外ゲームベンダが質と量を兼ね備えたゲーム開発で攻勢を強めるなかで、日本のゲーム業界がこれまでの人海戦術による対抗が難しくなってくると指摘。ゲーム開発においてもMOT(マネジメント オブ/オン テクノロジ)への取り組みが必要だと語った。

 ナムコ事業開発グループの馬場哲治氏は、「ナムコの基礎技術開発ケーススタディ」と題した講演をおこない、馬場氏の研究部門では、どのゲームにも使える汎用性の高い分野を対象としており、ゲームに活用可能な画像認識や流体シミュレーションといった基礎研究の成果を紹介した。いずれも数年前から研究していたもので、画像認識では、カメラの前に置かれたタロットカードや、木でできたアルファベットのオモチャを置いた向きにかかわらず識別する例や、カメラの前でのユーザの動きをゲームの入力に利用する技術を紹介。流体シミュレーションでは、ナビア・ストークス方程式をゲームで使えるよう高速に計算する技法の開発により、リアルタイムで計算されるため空気や水流がインタラクティブに変化するデモを行った。このほか、開発現場からのリクエストで作成したケースとして、モーションデータを特徴を崩さずに十分の一以下に圧縮するツールなどを紹介した。

 同じくナムコのCTカンパニー ビジュアルデザイナーの金子晃也氏は、「次世代グラフィックスへのモチベーション」の講演において、金子氏がエースコンバット2以来携わってきたさまざまなタイトル(リッジレーサーやSEVEN、MotoGP2など)を紹介しながら、今後のグラフィックス表現で金子氏が目指す方向性を語った。金子氏は、現在主流とされているフォトリアリスティックは早晩限界に達する(写真と変わらない品質を実現すると、その先がない)と見ており、感性面を含めたノンフォトリアリスティック(NPR)を追及したいと述べた。金子氏はエンジニア的な視点も備えているということで、手書きイラスト的なレタッチを自動で付けるツールの開発や、色が濁らないきれいな影を実現するための計算手法など、予算を抑えながらクオリティの高いNPRを実現しているという。

photo 流体シミュレーションで炎の映像を自動作成
photo 金子氏の考案した色に対してきれいな影をつける新技法

 その後のパネルディスカッションでは、馬場氏、金子氏に東京工業大学の長谷川晶一氏を加えた3人がパネリストとして登壇。エンジニアとクリエイタのギャップや、クリエイタのキャリアパス、ゲーム関連研究への予算獲得など、幅広い内容の討議が行われた。

 エンジニアとクリエイタのギャップについて馬場氏は、「クリエイタのやりたいことをご用聞きのように聞くことが大事」として、「(クリエイタの作業を)後ろから見て、なんて大変な仕事をしているのだろう、と思うところが狙い目。クリエイタの能力で補えるところは深入りせず、大変そうで、なおかつ技術でまかなえるところを見つけるのがポイント」だと述べた。これに関連して長谷川氏は、現在開発を進めている物理シミュレーションとキャラクタモーションを統合したエンジンについて、「(実際のクリエイタを)後ろから見ることができないのはつらい」と述べ、大学単独でのゲーム研究の難しさをにじませた。

 キャリアパスについては、開発現場の大規模化が進む中で、増えた人員に対して十分なポストが用意できないことからキャリアパスが見えにくくなっている現状や、北米IT業界のような大学と企業の間の人的交流(企業から大学教授へ、大学から企業の事業部門へ、等)が日本ではゲーム業界に限らず行われていないことなどが指摘された。

 このほか、科学技術振興事業団(JST)などによるゲーム関連研究への補助について、長谷川氏はゲーム関連のテーマによる応募がほとんどない現状を指摘。これに関して会場からは、「ゲームに興味がある学生はこれまではゲーム会社に就職してしまっていたが、最近は大学院に残るようにもなり、今後研究が増えてくるのではないか」、「コンテンツ振興法の成立など追い風があるうちに予算を獲得して研究を進めることが必要だ」といった意見が出された。

 IGDA日本は、国際NPO「国際ゲーム開発者協会」(IGDA)の日本チャプター。

photo 物理シミュレーションと自律動作するキャラクタモーションを統合した開発環境となる長谷川氏の研究内容
photo パネルディスカッションの様子。左から、モデレータのIGDA日本 新清士氏、パネリストのナムコ金子晃也氏、東京工業大学の長谷川晶一氏、ナムコの馬場哲治氏