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米国で研究進む「シリアスゲーム」、応用範囲広がる――東大ゲーム研究プロジェクト

» 2004年12月20日 12時36分 公開
[記事提供:RBB TODAY]
RBB Today

 シリアスゲームジャパンの藤本徹氏は、東京大学ゲーム研究プロジェクトの研究会で、『北米におけるシリアスゲームの展開』と題した発表の中で、ゲームのエンタテインメント以外への活用が、教育やマーケティングなどの分野で進んでいる状況を紹介した。

 シリアスゲーム(Serious Games)は、以前は個別分野でシミュレーションや訓練などに利用されていたゲーム(医療用シミュレーション、教育用シミュレーション、軍事用シミュレーション……)を、ひとつのまとまった分野のゲームとして取り扱うことにより、ノウハウの共有や人的交流などを進めようという考え方で、Serious Games Initiativeがオンラインコミュニティやゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス(GDC)などでのサミットをおこなっている。

 藤本氏は、教育的な面からシリアスゲームが注目される理由として、以下の3点をあげた。

1:現実には危険、高コストな環境を低コストで再現できる

(例:フライトシミュレータ、医療実習用シミュレータなど)

2:学習者を引きつける効果がある

(例:内装などで変わる導線が反映されるレストラン経営シミュレーション「レストランエンパイアなど」)

3:従来の教育手法では教育しにくかったことを教育できる

(例:大学経営シミュレーション「Virtual-U」など)

 このほか、教育に利用できるゲーム技術として、MMORPGなどに見られる「オンラインコミュニティ」、ゲーム序盤などに組み込まれている「チュートリアル」、ゲームで対象に触れることで実際のものにも興味を持たせる「体験型学習」などが活用できると指摘。

 北米ではさまざまな対象・用途のシリアスゲームが開発されており、「America’s Army」は、米陸軍がスポンサーとなって広報活動用に開発されたタイトルで、陸軍での訓練生活を体験できるゲームだ(訓練生活なので、銃で誰かを殺すといった場面はない)。

 また、テロ被害発生時の消防活動の訓練が可能な「Hazmat」は、ニューヨーク市消防からの情報提供をうけて開発されたシミュレータで、Unrealエンジンを用いて開発されている。インストラクタが条件を設定したり、必要に応じてゲームに介入しながら、消防士に災害現場でどのように振る舞うべきかをゲームを通じて教育するというものだ。

 このほか、2004年の大統領候補ハワード・ディーン氏の知名度向上などを目指して開発された「Dean For America Game」のように、マーケティング目的のミニゲームなどの例も紹介された。

 シリアスゲームプロジェクトのこれまでの教訓として、「発注者は、ゲームを買うのではなくソリューションを買う」ということで、ゲームを売りにするのは逆効果で、その問題が何かを認識して、そのゲームがどう役に立つかをプロモーションする必要であると指摘。また、「高くつくのでは?」といった不安や、逆に「ゲームを使いさえすれば学習者のモチベーションが高まる」といった過剰な期待など、発注者の誤解を早い段階で解消する必要があるとも述べた。

 また、複雑なゲームは導入が困難な場合が多いということで、リアルにしないと学習につながらないが、パラメータが増えるとおもしろさが下がるため、バランスが大事だとも述べた。これはVirtual-Uに見られたケースで、複雑すぎて教育用に使いにくいという課題があったという。

 日本ではまだこれからの「シリアスゲーム」だが、米国では、America’s Armyなどの成功事例の登場により消費者の心理的障壁は下がっているという。日本でも、エンタテインメント以外の用途で成功事例を作り出せれば、ゲームやゲーム技術の新たな用途が広がりそうだ。

 東京大学ゲーム研究プロジェクトは、東京大学大学院情報学環・学際情報学府 馬場研究室と、IGDA日本によって運営されている産学協同プロジェクト。