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オンデマンドサービスの「限界」(1/2 ページ)

» 2005年01月06日 15時38分 公開
[西正,ITmedia]

ブロードバンド展開の要

 ブロードバンドが急速に普及してきた今、通信キャリアとしては価格競争に収束してしまうことのないよう、サービス面での充実が課題となっている。IP電話や高速インターネットも良いのだが、そうした通信サービスでライバル他社との差異化を発揮することは難しい。そこで、より大きな付加価値を見出すべく、放送系サービスへの傾斜が進んできたというのが2004年の展開であった。

 電気通信役務利用放送法の施行に伴って、ブロードバンド放送が立ち上がってきたのが、そうした動きの典型であり、パイオニア的な存在であるソフトバンク系のBBTVに続き、KDDI系の光プラスTV、スカパー系のオプティキャスト、関西電力系のKCAT、eoTV、JPC系のオンラインティーヴィと、続々とサービスを開始した。今春には、伊藤忠商事とNTT西日本によるIP放送もスタートすることになっている。

 現状の法解釈上は、IP放送各社は著作権の取扱いから、有線テレビジョン放送法(有テレ法)に基づくCATVとは異なる可能性が高いと考えられている。さらには安定した画質を提供し得るのかどうかについても、確たる保証がないということで、地上波系をはじめとする番組供給事業者からはコンテンツが提供されていない。

 現段階では、オプティキャストとKCAT、eoTVのように、映像配信とIP通信を切り分けている事業者を除けば、他のブロードバンド放送事業は純然たるIP放送であるため、地上波のようなフリーテレビの再送信も認められていない。IP放送の場合には、各家庭までのアクセスラインをキャリアが握ることもあって、放送局としては水平分離に対する心理的嫌悪感も消えていないようだ。

 しかしながら、技術の進歩は想像を絶する速さで進んでいる。いずれ、IP放送に乗るコンテンツも多様化していくことは間違いないだろう。

 とはいえ、各事業者とすれば、それまで待っているわけにもいかない。そんな中で、加入者数を確実に増やしていくためには、各事業者ともビデオオンデマンド(VOD)をはじめとするオンデマンドサービスが目玉商品となると期待しているようだ。

 本格的なVODサービス展開が始まってから、半年が経過したが、今のところ利用者が急増している気配はない。この要因としては、VODサービスへの認知度が低いこと、コンテンツの品ぞろえに限りがあること、まだまだレンタルビデオ店の人気が根強いことなど色々と指摘されている。しかし、ブロードバンドの普及のスピードを思い起こせば、この手のサービスの評価を半年程度で下してしまうのは早計というものだろう。若者を中心に一度火がつけば、一挙に利用者が増えていくことも十分に有り得るからだ。

 オンデマンドサービスは確かに便利である。映画でもテレビドラマでも、見たいと思った時に、すぐに見られるというサービスなのだから、少なくとも迷惑に感じる人はいないはずだ。各事業者とも、そうした確信があるからこそ、目玉商品となると期待しているのだろう。

対象コンテンツをどこまで広げるか

 VODサービスの利用者が拡大すれば、そこにあるマーケットを誰もが認識することになるので、投入されてくるコンテンツも豊富になってくることは間違いない。

 ただ、「過ぎたるは及ばざるがごとし」と言いたいのは、あまりに便利になりすぎても、逆に利用意欲を減退させることになりかねない可能性があるからだ。

 すなわち、本当のオンデマンドニーズがどこにあるのかという話になると、今のVODコンテンツのように、ハリウッド映画や地上波局のアーカイブから拠出されるものにとどまらず、先週放送していた番組の評判が良かったので見てみたいとか、昨日放送していた番組を見損なってしまったので見てみたいといった要望に応えることだと言われる。サーバ型放送の狙いも、そうしたニーズに応えることにある。

 確かにこれは便利だ。しかし、VODに適したコンテンツとは何かということは、改めてよく考えてみるべきなのかもしれない。映画やテレビ番組にばかりコンテンツの供給を求めていくと、VODの市場規模は思いの他、早い段階で、飽和点に達してしまうことになりかねないと思えるからだ。

 放送局の現場でテレビドラマを作っている人に聞くと、その辺りのリスクが見えてくる。週に1回放送される連続ドラマを、例として考えてみよう。視聴者に連続ドラマを見続けてもらうためには、今週の終わり方は、早く続きを見たいというところで止めておく必要がある。さらには、次週の予告編として、一層気になるようなシーンを2つ、3つ見せておくようにする。

 そうした作り方、見せ方をすることによって、次週の放送に視聴者を誘導するわけであり、視聴者の方は、早く続きを見たいという気持ちでワクワクしながら次週の放送を楽しみにする。連続ドラマの場合には、途中を見損なうと、そこだけ飛ばして見ても、おもしろさは半減してしまうことになりかねない。だから、どうしてもその時間にテレビの前にいられないと分かっている時には、VTRに録画しておいてでも見ようと思うのである。そうしたことを繰り返しながら、最終回まで持っていくのが、高視聴率ドラマの上手な作り方というわけだ。

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