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コラム
» 2005年04月15日 14時50分 公開

NHKの受信料制度についての1つの考え方 (2/2)

[西正,ITmedia]
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有料放送化というソリューション

 NHKの民営化という解決方法は、受信料制度のあり方を考えていく上でも、1つの大きな検討事項になる。ただ、ここではその検討を省く。“公共放送の存続”を第一義に考えるのであれば、安定的な収入確保の道を模索する方を優先すべきと筆者は考えるからだ。もちろん、総論と各論は同時に語られるべきものだろうが、それに固執する余り、議論が平行線をたどり、なんら一向に解決しない、というのではいかがなものだろう。

 加えて、NHKや地上波民放による放送は、明らかに、電気、ガス、水道と同じライフラインとして位置づけられる。ライフラインを提供する事業に求められるのは、利潤の追求以前の問題として「安定供給」、「ユニバーサルサービス」の実現である。その意味でも、まずは安定した収入源の確保を図ることが優先される。

 NHKが広告放送化することについては、間違いなく民放が猛反対するだろう。テレビ広告市場は2兆円程度の水準に落ち着いており、景気変動の影響が大きいと言われる広告費の世界では比較的安定した規模を維持している。逆に言えば、それが大きく拡大することは期待しにくく、NHKがそこに入って行くことは、民業の圧迫になることは間違いない。NHKの広告放送化という選択肢はないものと考えた方がいいだろう。

 となれば、考えられるソリューションはNHKの完全有料放送化。つまり、スクランブルをかけることによって、受信料を支払わない限りNHKの放送は見られないようにするのである。

 「わが家ではNHKは見ていません」と言って受信料の支払いを拒んできた人たちは、本当に見ていないのなら何も困ることはないはずだ。一方、これまでも受信料を支払ってきた人たちにとっては、新たな負担が生まれるわけではないため、有料放送化に異議を唱えることもないだろう。もし有料放送化に異議を唱える人たちがいるとすれば、その大半はまさに「見ていない」と言って受信料の支払いを拒みながら、実は見ていた人たちだろう。そういう人たちの唱える異議には何の説得力もない。

 有料放送化するということは、視聴料を払わない人が増えると収入が減少することになるので、十分にNHKの責任を追及する効果を持つ。NHKの一部職員が不祥事を起こしたことに対する抗議の意思を表明するのなら、NHKの番組は見ないことにして視聴料金を支払わなければいいのである。

 視聴料の支払いは拒むけれども、番組は無料で視聴するという姿勢を取ったのでは、便乗してタダ乗りをしているのと同じである。有料放送化によって両者の間に一線が画されることになるのは、本当に抗議している人たちにとっても迷惑な話ではないはずだ。

 NHKの有料放送化はある意味、受信料の支払いについて、払う人も払わない人も同じサービスを享受しているという矛盾の解消につながる。NHKの放送を見るためには、受信料相当の視聴料を払わなければならないとすると、おそらくNHKの収入は、今より大きく拡大することになるだろう。それをもって、NHKの肥大化につながるという指摘をするのは間違いである。本来なら払うべきものを払うようにしたことで収入が増えるのであれば、むしろ今までの受信料制度のあり方の方に大きな矛盾があったのだと考えるべきなのだ。

 ここで、NHKを民営化するのではなく、公共放送として存続させていくことに意義があるのは、必要以上にNHKの収入が増えすぎたと思われる事態になった際に、視聴料の値下げを検討することが可能だということである。民間企業であれば、収益が大きくなったからといって値下げを要求される筋合いはない――という理屈も通るからだ。

台数分の受信料を払うのか?

 NHKを完全有料放送化する場合、最大の問題になるのは、実は冒頭に述べた2台目、3台目のテレビをどうするのかという点だ。通常の有料放送の場合、スクランブルを解除されるのは、1台ごとのテレビに対してである。WOWOWやスカパー!も、ケーブルテレビも、2台目のテレビで見られるようにするためには、2台分の料金を支払わなければならない。これは放送局のスタンスだけの問題ではなく、ハリウッドも含めた著作権者側の意向があるからである。

 同じ理屈からすれば、NHKの番組を有料視聴することになれば、テレビの台数分だけ料金を支払わなければならないことになる。地上波のデジタル化によって、携帯電話機やカーナビセット型などの移動受信端末でも、放送受信が可能になる。それらもテレビ1台分にカウントされることになる。

 もちろん、その解決策として、NHKは公共放送なのだからという理由で、1台目のテレビについて視聴料を払っていれば、2台目以降のテレビについてもスクランブルを解除できるようにすることは何らかの方法によって可能だろう。ただし、移動受信が可能になるということは、テレビ受像機自体が移動するようになるわけなので、2台目以降であることの判別が難しくなる。そういう識別機能を付加していくことが、コスト増につながれば、結果として視聴料の値下げを期待することは難しくなる。

 ただ、公共放送であるNHKは、これまでも、ケース・バイ・ケースで、あえて受信料を徴収しないということも行ってきた。「お金のない人はNHKを見ることができない」というスタンスを取ることが適切でないと判断した場合、むやみに支払いを求めるようなことはせずに視聴できる環境を確保してきたのである。完全有料化が行われることになっても、こうした原則に則り、臨機応変にスクランブルを解除することは可能であろう。

 NHKを完全有料放送化することによって、視聴料収入は増えるであろうし、視聴料の集金コストも削減されることになるだろう。一方、公共放送であるがゆえに、視聴料支払いの見返りではない形でのスクランブル解除を行っていくためのコストもかさむことになろう。プラスもマイナスも相殺される。

 今のような受信料不払いが続くことになれば、いずれは本稿で述べてきたようなソリューションが必要になる。完全有料放送化がなされ、それが当たり前のことであると認識される頃になって、かつての受信料制度の方が日本的で良かったと後悔することになるのではないだろうか。

 今の受信料不払い急増が、いつの日か「後悔先に立たず」ということにならないか、筆者は実はそれを心配しているのである。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「モバイル放送の挑戦」(インターフィールド)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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