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ペイテレビの解約防止をどう考えるか(2/2 ページ)

» 2005年05月19日 14時38分 公開
[西正,ITmedia]
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 映画、音楽、ニュース、アニメなど、大半のジャンルでは、そう頻繁に加入・解約が繰り返されるとは考えにくい。映画専門チャンネルはたくさんあるが、その中でライバルのチャンネルよりも新作映画の放映が遅れるため解約が多いのだとしたら、それは防止策云々以前に企業努力が足りないのである。

 一方、加入・解約が問題視されるジャンルの典型はスポーツだ。野球やサッカーなどのファンが多いチャンネルでは、シーズンインの直前に加入し、シーズンオフとともに解約するというのは非常によく見られるスタイルである。

 彼らの解約を防止する方策としては、オフシーズンに独自番組を制作して、前シーズンの注目点や反省点を放送するとともに、来シーズンへの過大や期待をコメントしていくといったスタイルになるだろう。だが、スポーツの魅力が、リアルタイムでゲームを見て、スリリングな気持ちになることである以上、解約防止が難しい状況は変わりにくい。野球やサッカーを目当てに加入してくる人に、オフシーズンになったら他のスポーツに興味を持ってもらうようにするといった考え方もあるが、前述したように、テレビ視聴時間そのものが増えているわけではない以上、そうそうスポーツチャンネルばかりを見せ続けるのは無理がある。

 スポーツというジャンルで解約防止を検討するならば、むしろ新規加入者の拡大促進策の在り方自体を再検討するべきように思える。スポーツの場合には映画や音楽などと違って、何か大きなイベントの放映権を獲得することで、それを売り物に新規加入を伸ばすことが容易であるという特徴を持つ。このため、そうしたイベントの放映権獲得に巨額の資金が投入され、争奪戦に拍車がかかる傾向が止まらない。

 確かに新規加入者拡大促進への効果は大きいが、元々そうした動機で加入した人たちなのだから、イベントの終了とともに解約者が続出するのは当然のことなのだ。こうした層の解約を少しでも防止して、そのチャンネルに定着してくれる人が増やさなければ、巨額の資金を投じた意味がなくなってしまうように考えるのは無理もないことだ。だが、元々が加入・解約の容易さを当て込んだ戦略なのであり、それを定着させようということにそもそも矛盾があることを自覚したほうがよい。加入者数の増減の幅を大きくしている要因の大半は、そうした“新規加入者の拡大のさせ方”にあるのだ。

 ペイテレビ事業の経営の安定という見地に立つならば、最初に述べたように、加入者層には2通りあることを再認識するのと同時に、あくまでもベーシックとなる層を堅実に厚くしていくことを優先させるべきだ。

 本当の問題はベーシックな層のほうが崩れ出すことにある。そこが崩れ始めたら、経営的なダメージが大きくなる。加入・解約を繰り返す層の取り込みや解約の防止に血道を上げてばかりいるうちに、ベーシックな層に嫌気を持たれてしまうような番組編成だけは避けなければならない。

 最初から一定の期間に限って加入者を増やす効果しかないイベント物ばかり取り上げていると、加入者増に成功したことも報じられるが、解約者が増加し始めた時にも色々と取り沙汰されることになる。安定的にそのチャンネルと契約している層にとって、何やら解約を巡るニュースが多くなってくると、見る、見ないによらず、毎月視聴料を払っている自分のスタイルも見直さなければならないような気になってくるのではないか。ところが、この安定的な層は、逆に一度解約してしまうと、簡単には再加入してくれない層でもあるのだ。

 ペイテレビ事業者にとって、最も守らなければいけないのは安定的な層だ。加入・解約を繰り返す層をターゲットとし、そこから安定的な層の厚みを増すのだと言いながら、最初から安定的な層を失ってしまったのでは何にもならない。

 すなわち、解約防止策というテーマを真剣に考えておかなければいけないのは、加入・解約を繰り返す層についてではなく、安定的な層についてなのである。むやみにイベント物の放映を増やしたり減らしたりする結果として、そのチャンネルのカラーが失われてしまうことこそ、絶対に避けなければならないことだ。

 ペイテレビの経営に当たって、チャンネル全体に勢いをつけることは必要だ。デジタル化によって加入・解約が容易になったこともあり、時には大きなイベントの放映権を取って話題を呼ぶことも重要だ。しかし、それはあくまでも安定層をしっかりと確保した上で、プラスアルファで行うのでなければ、いつまでたっても浮遊層に振り回されることになりかねない。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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