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「電子書籍」はどこまで来たか小寺信良(2/3 ページ)

» 2005年05月30日 14時13分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 だが双方走り出して約1年が経過し、それぞれのビジネスモデルの違いから、対決という図式でもないことがあきらかになりつつある。まず松下のΣBookは、当初から配信系コンテンツビジネスのための「ツール」として開発されてきた。あくまでも主体は「本」というコンテンツである。

 したがって既存の流通ルートからの反発を極力抑える形で、事業を構築してきた。版元である出版社はもちろんのこと、「取次」を通してコンテンツを流通させる。さらにΣBook本体の販売を大手書店に任せるといった手法で、既存インフラにまんべんなくお金が落ちる仕掛けを考えたのである。

 業界の理解が得られれば、話は早い。ΣBook専用電子書籍販売サイト「ΣBookJP」の品ぞろえの良さは、他の独自販売サイトが“駅前通り商店街の小さな本屋”だとすれば、「イトーヨーカドーに入っている『くまざわ書店』」ぐらいの規模である(この例えじゃ分かんない人も多いですよね。スイマセン)。

 さらにボイジャーの独自フォーマット、「ドットブック」に不正コピー防止機能を付加したフォーマットを開発し、既存の電子出版でさえも取り込んでしまった。

 一方ソニーのLIBLIeは、既に現代の本の流通からは落ちこぼれてしまった「貸本屋」という事業モデルを、デジタル時代に合わせて再構築した。LIBLIe専用コンテンツを販売する「TIMEBOOK TOWN」は、売り切りコンテンツの同業他社に比べ、1冊あたり約1/3の価格でコンテンツが読める。ただし読める期間は、2カ月に限定した。

 TIMEBOOK TOWNを運営する株式会社パブリッシングリンクのマーケティングマネジャー、五石信也氏は、「期間限定だからやれるビジネスがある」と語る。

 「自分で持っておきたい本というのは、やはり皆さんこれからも紙の本を買われるんだと思います。そういうものではなくて、乱読というんでしょうか、読んだら中古市場に流れていくようなものを、ぜひTIMEBOOK TOWNで読んでいただきたいと考えています」

 このモデルは、版元である出版社や著作者にも別のメリットがある。今まで古本市場というのは、出版ビジネスの中では、目の上のたんこぶであった。書店で買われたたった1冊の本が中古市場をグルグル循環してしまっては、作り手側は商売にならないのである。だがデジタル貸本であれば、貸し出されるたびに版元にお金が入り、出版契約に基づいて作者にも印税が入る。

 また消費者も、いろんな本が格安で読めるというメリットがある。古本屋に本を売りに行ったことがある人はお分かりかと思うが、本の買い取り価格などは二束三文で、金額的にはとても割に合うものではない。どちらかと言えば物理的な場所整理という意味合いのほうが強いぐらいなのである。

 また出版社にとって痛しかゆしなのが、図書館の存在だ。よく読まれる書籍は一括で大量購入してくれる上客ではあるのだが、それが元で今度は書店での販売が減るという面もある。これもデジタル貸本ビジネスで解決できる。

 今年の5月27日から、奈良県生駒市立図書館では、試験的に電子書籍の貸し出しを開始した。コンテンツはTIMEBOOK TOWNから図書館側がチョイスした1300冊。端末はLIBLIeが20台である。コンテンツの貸し出しはもちろん無料。ダウンロードした回数分だけ図書館が使用料を払うわけだが、これは図書館側にもメリットがある。

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