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移動通信サービスに動き出すJ:COMの狙い(2/2 ページ)

» 2005年06月02日 17時38分 公開
[西正,ITmedia]
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 トリプルプレーからクワトロプレーに変わることは、解約防止策としても有効だろう。昨年度ベースで言えば、ケーブルテレビ加入者の解約率は月当り1.4%程度なのに対し、3つのサービスを取った世帯の解約率は0.8%と、半分近くにとどまっている。加入世帯の取るサービスの種類が増えれば増えるほど、J:COMとの接触時間が多くなる。接触しているせいでトラブルばかりとなれば逆効果にしかならないが、サービスに問題がなければ、加入世帯からはより大きな親近感や信頼感を得ることができるだろう。

 クワトロプレーで提供されるサービスは、どれもライフライン的なものだと述べたが、ライフライン的なサービスというのは、使っていて余程のトラブルが起こらない限り、加入世帯はキャンセルをしない傾向にある。こうした経験に照らしても、トリプルプレーに移動電話を加えるで、解約防止効果はさらに大きくなっていくはずである。

 あとは、大手通信会社との競合が増していくことに備えておくという意味で、大手にはなかなか手が回りにくいアフターサービスを充実させていくことも重要だ。リモコン操作なども難しくなる一方である。訪問営業の一環として、加入者が機器の取扱いなどで困っていたら、丁寧にサポートをしていくことも可能である。

 売ってしまった途端、次の新規加入を取ることばかり考えずに、既存のユーザーにとっても必要な存在となることが決め手となる。これからは本格的な高齢化社会である。価格競争によって低価格で売られるよりも、アフターサービスが充実している方を選ぶ顧客が増えて行くことになるだろう。

 もう1つ、アフターサービスということで言えば、例えば、J:COMに加入してから3年が経った顧客に対しては映画の切符を2枚プレゼントして、これまで使ってくれた感謝の意を表明するのと同時に、これからも引き続き使ってもらうといったことも考えられる。

 VOD事業については、本来なら先に4つ目のサービスとなることが期待されていたのだが、J:COMではこの先2年間は辛抱しようと考えているようだ。VODを提供している地域での実績からすると、VODのボタンに触った人は、全体の3分の1程度だったと聞く。日本ではVODという視聴スタイルがまだ全く確立しておらず、認知度も低いのが原因であろう。これは訪問営業によって地道に説明していくしかない。

 実際、米国でも訴求していくのに3年がかかったと伝えられる。J:COMではそれを何とか2年くらいで達成することを目標にしているのだから、むしろ早いとも言える。こうしてVODがビジネスとして成り立ち始めれば、クアトロプレーに5番目のサービスが加わることになる。むろんこれもARPUを上げる材料になっていくことだろう。

 日本のCATV業界のフロントランナーであるJ:COMの戦略については、他のCATV事業者も注目している。あくまでもJ:COMに対抗していくか、それともアライアンスを組むかの選択が今後急がれることになるだろう。ただし、筆者の見るところ、CATV事業の本当のライバルは大手通信事業者である。本当のライバルを見誤ることのないよう、この点を十分留意しておくべきだ。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。 銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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