野村総合研究所(NRI)は6月2日、放送と通信に関してインターネット上で調査した結果をまとめた。放送と通信の融合がなかなか進まない中、家庭内LANでコンテンツを流通させる動きが加速していると指摘。さまざまなコンテンツがリビングで融合した結果、放送や通信のあり方が変わっていくだろうと予測している。
4月27〜28日にかけ、1000人(HDDレコーダー所有者・非所有者半々)を対象に映像・音楽コンテンツの利用状況や家庭内LAN敷設状況などをアンケートで調べ、今後を予測した。
調査の結果、放送やパッケージコンテンツの力はまだ根強いと分かった。HDDレコーダー所有者は、番組の6割を生で視聴しており、HDD搭載型音楽プレーヤーユーザーも半数以上がMDやCDを再生して聞くことの方が多いと答えた。
同社からは最近、HDDレコーダーのCMスキップ機能によってCM価値が540億円失われているとのレポートが出た。だが「HDDレコーダー所有者でも生でテレビを見る時間のほうが依然長い。HDDレコーダーの世帯普及率は10%強でしかなく、CMスキップの効果がダイレクトに現れるかどうかは、もう1ステップ踏み込んだ議論が必要」(同社情報・通信コンサルティング二部の北林謙副主任コンサルタント)。
HDDレコーダーやPCを使いこなしてるユーザーの間では、コンテンツを大量保存・蓄積する視聴スタイルが定着し始めた。PC内に保存している楽曲数の平均は、HDD型携帯音楽プレーヤー所有者で485曲。HDDレコーダーには平均26.9番組が蓄積されており、HDD内のコンテンツをPCに移したことがあるユーザーも約2割いた。
ビデオやCDと異なり、大量のデータを省スペースで管理できるHDDの登場で、ユーザーの保有コンテンツ数は飛躍的に増えた。結果、「人間サイドの認知の問題」(北林副主任コンサルタント)が浮かび上がったという。コンテンツが増えすぎて管理、視聴しきれなくなっているのだ。
これを解決するのが、iTunesなどコンテンツ管理ソフトと家庭内LANだ。管理ソフトでコンテンツを一括管理し、家庭内LANによって各部屋のAV機器間で流通させれば、コンテンツを整理しつつ、いつでもどこでも簡単に取り出して視聴可能になる。これが結果として放送と通信の融合につながるという。
「放送局などコンテンツ伝送者側は、放送、ネット、パッケージと、チャンネルを分けたままコンテンツを流通させようとしている。しかし家庭内LANがこの動きを崩すだろう」(同社情報・通信コンサルティング二部の廣戸健一郎副主任コンサルタント)――コンテンツをデジタルデータとして1度取り込んでしまえば、ソースが放送だろうとネットだろうとユーザーにとっては関係がない、というわけだ。
HDDレコーダーを持つ回答者(ほとんどがブロードバンドユーザー)の家庭内LAN普及率は約50%。非保有者でも32%にのぼった。「多いと思われるかもしれないが、流通側の情報と合わせても妥当」(廣戸副主任コンサルタント)。ただ大半が複数PCの接続用で、映像コンテンツなどをPCからTVに出力しているユーザーは全体の2割程度だった。
家庭内LANの一層の普及を妨げている壁は、文字通り部屋と部屋とをさえぎる「壁」だとみる。家庭内LANの半数が有線のみで接続されており、LAN機器を設置している部屋数も『2部屋まで』が75%。物理的な壁が普及の足かせとなっている。「今後、IEEE 802.11nなど新しい無線規格や、電力線通信(PLC)などが普及するにつれ、AV家電のネットワーク化が進行するだろう」(廣戸副主任コンサルタント)。
Xbox 360やプレイステーション 3といったネットワーク対応ゲーム機も家庭内LAN構築を後押し。放送と通信の融合は、今後10〜20年といった長いスパンで進んでいくと予想している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR