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CS放送にも“視聴率”の時代?――始まった測定実験(2/2 ページ)

» 2005年06月09日 17時41分 公開
[西正,ITmedia]
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 このメディアウオッチの仕組みを簡単に説明しておくと、この腕時計型測定装置はそれを装着した人が視聴している番組の音声を拾う。最大で4週間分の音声をデジタル化して蓄積することができる。

 JPCは実験の終了次第、モニターからメディアウオッチを回収。そこに蓄積された調査対象番組の音声データから、モニターが視聴した番組を特定する。つまり、CS放送の視聴実態が、毎分単位で、機械的に調査することができるようになるわけだ。実証実験の目的は、メディアウオッチによる視聴率測定が技術的な問題を含むかどうかを検証するものである。コスト対効果のテストになる。

 これから実験が始まるという段階でもあり、JPCとしては未だ、広告主からの出稿を得る材料に使うと明言していない。また、あくまでも実験であるため、結果は公表されることはない。むしろ、CS放送サービスの質の向上を図ることが目的であるようだ。

 CS放送についての個人視聴率調査が可能になれば、視聴者の支持を得やすい番組編成、調達が可能になる。JPCのチャンネル編成の根拠としても活用できる。

 腕時計型であるため、視聴率調査対象が外見から一目で分かってしまうことも懸念されるが、時計のデザインを工夫すれば、大きな支障とはならないだろう。他人の時計を気にする人が、それほど多くいるとも思えないからだ。

 また夜中にテレビを見る場合に、ヘッドホンなどを付けて音声が外に洩れないように見ている場合はどうするのかといった声も聞かれる。しかし、そのようなことを言っていては、いつまで経ってもCS放送の視聴率調査は進まない。ケチをつければ切りがなく、そこまで言うなら今の地上波の視聴率測定がどこまで正確なのかという余計な議論につながってしまうだけだろう。

 メディアウオッチによる視聴率の測定は、当面、CS放送サービスの質の向上に寄与することが最優先目的であるとは言え、そこから得られる視聴率データの信頼性が高いことが確認されれば、当然のことながら、広告主に対するアピール材料となっていくだろう。こうしたチャレンジは、番組供給統括会社であるJPCだからこそ、可能なことだと評価できる。誰かを当てにしていたのでは一向に進まない現状を変えるには、変えたいと考える側から行動を起こすしかない。

 腕時計で視聴率調査ができる時代である。技術の進歩のスピードを考えれば、次から次へと思わぬ形での調査方法が提案されてくる可能性も大きい。そうした技術の進歩にも目配りをしながら、多チャンネル放送のさらなる拡大を目指す姿勢が求められているということだろう。

 今後もCS放送の視聴世帯はまだまだ大きく拡大していくことが予想される。個別のチャンネルベースの数字は、いつまで経っても微々たるもので、大きく変わることはないのかもしれない。しかし、微々たる数字の蓄積が無視し得ないものであることも確かだ。

 CS放送の広告収入マーケットが実力相応のところまで拡大していくためには、優良なコンテンツを提供することに尽きるが、その一方で、数値データによるアピールが必要なことは間違いない。「収入の増加→良質なコンテンツの提供能力の向上→収入の増加」という好循環を引き起こすためにも、CS放送の広告料収入マーケットの拡大は、本格的に検討される段階になってきたということだろう。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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