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民放の“タイムシフト視聴嫌い”を変えるには?西正(2/2 ページ)

» 2005年07月21日 20時48分 公開
[西正,ITmedia]
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 もっともCMは貴重な情報源でもある。仮に全くCMを見ないという視聴生活を送っていたら、日常生活において情報不足になり、不便な思いをすることは明らかだ。

 また、アナログのVTRが登場してきてからの歳月を考え、その間に民放の経営状況が本当に悪化したかどうかを考えると、CMを見ない仕組みが高度化しようとも、結局は多くの視聴者が引き続きCMを見るというのが事実だろう。

 民放としては、スポンサー企業に対する手前もあって、タイムシフトの高度化については、あくまでも消極的なスタンスを採らざるを得ないという冷静な見方もある。HDDなどの普及によって民放局の経営に対するマイナスがどれだけになるかを、単純に数式を駆使するだけではじきだすことは簡単だが、視聴者のファジーな面までを数式化することは不可能である。

 CM飛ばしの話にばかり終始する形で議論が進められてしまっては、サーバ型放送に限らず新たな視聴スタイルの高度化はなかなか実現しない。

 そうは言っても民放が神経質になる気持ちも分かるので、英米ではCMを飛ばすどころか「頭出し」にCMが集約されて出てくるようなビデオレコーダーが注目を集めていることを記しておきたい。このレコーダーでは番組と番組の間に入っているCMが、再生時の「頭出し」に出てくることになっている。民放はCM飛ばしについて、特にスポンサー企業に対する心理的な影響を懸念していることからすれば、レコーダー(蓄積機器)の側でそうした配慮がなされていれば、タイムシフトに対するスタンスも随分と変わってくるだろう。

 リアルタイム視聴であっても、ザッピングのように数字として把握できるものの他に、トイレに行かれることもあることを考えれば、基本的にはCMは流れるという前提にしておいた方が、あくまでも視聴スタイルの利便性の向上についての民放の協力も得やすくなるに違いない。

 サーバ型放送への対応にしても、CMにはメタデータを付けないようにして、一斉に落とすような編集はできないようにすることも考えられる。ただ、そうした手法を採ることは、対スポンサー上の効果は期待できるが、逆に非合法的なCM飛ばしのためのメタデータが横行することになりかねない。

 そうであるならば、あくまでCMにもメタデータを付けておいて、逆に、短時間のCMでは知り得ない詳細な情報を知ることができるようなページに飛んでいくといった使い方ができることをアピールした方が良さそうだ。ネットとテレビ放送が一台のテレビ受信機上で使えるようになれば、テレビCMをポータルとしたネットへの誘導が進むことは、スポンサーにとっても大きな魅力である。

 そうしたプラス面の効果をアピールすることによって、スポンサーの理解を得ておくようにした方が、変に非合法なメタデータが横行することを防ぐ上では効果的である。

 今のようにHDDやDVDRの大容量化、低価格化が進めば、サーバ型放送は必要なくなるという議論もあるが、蓄積が可能であるということは非合法な編集も可能だということである。サーバ型放送の規格をまとめていくという作業は、あくまでも放送局側の自主防衛策でもあるし、それが適うことによって良質な番組が提供されやすくなる。視聴者側にとっては後者の点が大きなメリットと言える。

 それでもCMを飛ばされることを懸念するのならば、番組中でスポンサー企業の製品であることが分かるように使っていくというプロダクトプレースメント方式も有効ではあろうと思う。ただし、プロダクトプレースメントはTPOからして、使えるケースとそうでないケースに分かれてしまう一面がある。使えるケースについては、あまり目障りに思われない程度に使っていくのも1つの方法であろう。

 とにかく、NHKの受信料は払わない、民放のCMは見ないと公言してはばからない人たちには、結果としてテレビ放送がどうなっていかざるを得ないかを考えてもらいたい。放送局のビジネスモデルに悪影響を及ぼすことについての試算やアンケート調査も結構だが、あくまでも試算は試算、アンケートはアンケートでしかない。悪意のない調査研究であっても、予期せぬマイナス効果をわざわざ新たに生み出すことになりかねない。その点には留意しておくべきだろう。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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