サーバ型放送についての規格作りは、予定より大幅に遅れていると言われる。その理由は言うまでもなく、民放の姿勢が消極的だからである。民放もタイムシフト視聴自体を根本から否定しているわけではない。アナログのVTRが登場した時点で、タイムシフト視聴の利便性が視聴者に受け入れられることは、すでに証明されているからだ。
にもかかわらず、なぜ民放はサーバ型放送に消極的なのか。その理由を考えるために、まず民放がタイムシフト視聴の何を嫌がっているのかを考えてみよう。
まず、第一の問題として、タイムシフト視聴では視聴率にカウントされないという事情がある。広告料の算定に当たっては、あくまでも“リアルタイムの視聴率”が基準とされることになっているのだ。他に有効な指標が見出せない以上、これはやむを得ないことといえるだろう。
それでは例えばの話、タイムシフト視聴についても録画率、再生率を算出することが技術的に可能になれば良いのだろうか? おそらく答えは否であろう。
まず、録画率は取れるかもしれないが再生率を取るのは技術的に難しいということがある。ところが録画率では、録画されても再生されることなくストックされたままになってしまう番組が多いことが、経験則に照らしてみれば明らかだ。必要なのは再生率の方なのだ。とはいえ、もし技術的に再生率のカウントが可能になったとしても、この場合、視聴者がCMを飛ばさずに見ている保証はない。
つまりタイムシフト視聴を視聴率としてカウントしたところで、問題の解決にはならないのである。
また、民放には広告料についてのタイムテーブルがあり、深夜帯とゴールデンタイムとを比べたら、ゴールデンタイムの方が圧倒的に高いという事情もある。スポンサーとしてはゴールデンタイム向けに高い料金を支払ってCM出稿したにもかかわらず、その番組が録画されて深夜に見られていたのでは、深夜帯との価格差に納得が行かないのではないかというわけである。
しかし、筆者はこのこと自体は問題にならないと思う。ゴールデンタイムの広告料が高いのは、その時間にテレビの前にいる人の数が多いということだけでなく、明らかにその時間にテレビの前にいる人たちをターゲットとしてCMが流されるからである。仮に録画して深夜帯に見られることになっても、それを見ているのがもともとのターゲットとして想定されていた人たちなのであれば、目的は果たせているわけだから、時間帯によって料金が違うことが問題になってくることはないはずだ。
ただ、そこでも問題になるのは、深夜帯に再生して見る人たちがCMを飛ばしてしまうのではないかということである。深夜帯にテレビを見ている人も多くいることは確かだが、時間が時間だけに、本編だけを急いで見てしまおうと思っている可能性は大きい。結局、ここでも問題は“CM飛ばし”に行き着くことになる。
サーバ型放送の場合には、単純に番組が蓄積されるだけではなく、色々な種類のメタデータが付せられることになる。メタデータを使って合法的な編集視聴を楽しめることが大きな魅力であると言われているが、逆に言えば、メタデータを手がかりにして全てのCMを落としてしまうことも可能になる。
民放がタイムシフト視聴に対して積極的になれない理由が、タイムシフトそのものではなく、CMを飛ばされてしまうことを嫌っていることからすると、サーバ型放送の場合、あまりにも便利にCMが飛ばせてしまう点が、民放としてなかなか前向きに取り組む気になれない最大の要因といえるだろう。
ARIB(電波産業会)がSTD B-38として規格を策定、放送事業者など90団体からなる「サーバーP」が運用規定の取りまとめを進めている「サーバー型放送」そのものは日本オリジナルの規格だが、HDDやDVDRの普及によるタイムシフト視聴が進んでいるのは、世界的な趨勢である。
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