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ペイテレビの市場拡大こそが最優先課題だ西正(2/2 ページ)

» 2005年08月25日 14時44分 公開
[西正,ITmedia]
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 筆者は先にCATVのスタンスを「買い叩き」と言ったが、番組供給者側からすればベーシックに入ることによって数が稼げることは確かなので、ある意味では、お互いさまの関係にあるとも言える。

 そういう意味では、現状の日本のペイテレビ市場が視聴シェアで2割に届かないという点にこそ根本的な問題があり、これを米国並みの5割を超えるところまで市場を拡大させることのほうが先決なのかもしれない。

 衛星からの直接受信かCATV経由なのかといった伝送路の問題や、それに伴う収入のカウントの仕方をとやかく言っているよりも、まずは契約者数を増やすことにプライオリティを置くべきだと筆者は言いたいのである。

 最近では、IP系の放送事業者も、インターネットと電話に多チャンネルサービスをラインナップすることにより、トリプルプレーとしてのサービス提供が一般的になっている。地上波放送の再送信が認められていないIP放送事業者にとっては、トリプルの1つである多チャンネルサービスの提供は不可欠のものとなっている。

 屋根の上のアンテナで地上波を受信できるためにCATVに加入する必要がなく、わざわざパラボラアンテナを設置するのも面倒だと考える世帯には、多チャンネル放送は届かない。WOWOWが250万件、スカパーの直接受信が350万件で踊り場を迎えている今、ペイテレビの市場を開拓しやすい状況にあるのはIP放送事業者である。

 地上波の再送信が認められていないことがネックとなって、今のところの加入世帯数はお寒い状況にあるが、ブロードバンドの急速な普及を考えれば、それを売り込む際にセットで多チャンネル放送を売る方針を採っているために、明らかにペイテレビ市場拡大の強力な牽引役として期待できる。

 CATV事業者の中には、IP放送事業者に対する警戒感が強いせいか、IP放送にチャンネルを提供しないよう、番組供給者側にプレッシャーをかけているケースもあるという。しかし、IP放送事業者がターゲットとしているのは、屋根の上のアンテナで地上波が見られ、ペイテレビの直接受信も面倒だと考えている世帯であることからすると、現状はバッティングの心配をするのは杞憂(きゆう)でしかない。

 むしろ、IP放送にペイテレビ市場を拡大させる役割を担わせることによって、少しでも多くのお金が番組供給者側に流れるようにすることの方が本筋というものだろう。最近では、ペイテレビの視聴率を取れる仕組みも着々と構築されつつある。数を伸ばすことによって広告収入が増えれば、番組供給者側にはさらに大きなお金が流れるようになる。

 番組供給者側に少しでも多くのお金が流れることになれば、彼らは提供するコンテンツの魅力を増すことができる。コンテンツがより充実してくれば、視聴希望者が増えていくことになるので、衛星の直接受信、CATV経由、IP放送経由の全てにとって加入者を獲得しやすくなるというメリットがある。

 最近の日本映画の興行成績が戻ってきていることは朗報と言えよう。ハリウッド映画の放映権を買ってくるのとは違い、今、日本映画は小さく作って大きく育てるという戦略が奏功しているために、番組の調達コストを下げながらコンテンツを充実させやすい。それは、映画チャンネルにとってだけの朗報ではないと思う。

 地上波が充実しているがゆえにペイテレビ市場の拡大に苦労しているという状況は、改善されつつあるとは言え、まだまだ苦しい状況にあることは視聴シェアが2割未満という数字に表れている。日本映画の興行成績が上がってきたということは、ファーストランで良い作品を見るためにはお金を払わなくてはならない、という意識が浸透しつつあることを物語っている。

 今の日本映画のヒット作の多くは、地上波民放が制作に深く関与しているものが多い。そのため、まずは劇場公開で興行収入を伸ばし、その後にDVDなどのパッケージとして売り、ペイテレビ用のコンテンツとして売って、最後にフリーテレビの地上波で流れるという米国型のマルチウインドウリリース戦略を採りやすくなっている。

 映画は映画会社が中心に制作して、テレビ番組は地上波局が制作するというスタイルのままでは、ファーストランが地上波から始まってしまうので、ウインドウコントロールが難しくなる。今の映画会社と地上波局の協力体制は、非常に好ましい展開だと言えるだろう。

 米国のハリウッドが強いのも、映画も作れば、テレビドラマも作るということで、最強のコンテンツ制作プロダクションとなっているからである。日本の最大のコンテンツ制作プロダクションが今や地上波局になっているのであれば、地上波局が積極的に映画制作に力を入れることは、非常に望ましいことだ。

 ファーストランが有料だという認識が高まることは、ペイテレビ市場の拡大に直結する。今はまだ、どの伝送路を通じて送られてくるのかとか、一物二価の問題をどう解決していくかということに知恵を絞るよりも、衛星、CATV、IP放送系が、協調してマーケットの拡大を図るべきである。

 ペイテレビに限ったことではないが、マーケットが小さいうちに競合が激しくなると、逆にマーケット自体が縮小してしまうことは多い。この点にこそ、業界関係者は留意しておくべきなのである。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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