NTTデータ、東急セキュリティ、イッツ・コミュニケーションズの3社は9月30日、横浜市青葉区で実施した“子ども見守りサービス”「アイセイフティ実証実験」の結果を発表した。この実験は、子ども達にICタグを持たせ、トラブルが生じたときは保護者や警備員がその場に駆けつけるというもの。保護者たちには概ね好評だったが、実験を進める中でいくつかの課題も浮き彫りになった。
実証実験は、2005年4月5日から7月末日までの118日間行われた。対象地域は、横浜市青葉区みたけ台周辺。1キロ平方メートルほどの実験エリアに「見守りスポット」と呼ばれるレシーバ(ICタグの電波を受信する装置)を27台設置し、子どもたちの位置を把握できるようにした。
位置データはインターネットを介してセンターに集められ、保護者たちは自分の子どもに限り、Webブラウザや携帯電話を使って、いつでも居場所を検索可能。また、子ども達がレシーバの近くを通ると保護者の携帯電話に電子メールを送信する「登下校(見守り)通知」も提供された。
端末には緊急通報ボタンを装備。子どもが危険を感じたり、困ったことが起きた場合に通報ボタンを押すと、近隣の保護者や東急セキュリティの警備員が駆けつける。実験に参加した子どもは188人で、その親達も“駆けつけ支援者”となる仕組みだ。「いわば、地域ぐるみで保護者達がお互いに支援するイメージ。駆けつけ支援者を一般から募集すると、どうしても悪意を持つ人が混じる可能性が生じる。このため、駆けつけ支援者は保護者に絞った」という。
実証実験後のアンケート調査によると、保護者たちにもっとも好評だったのは登下校通知だったようだ。「子どもが校門を通ると携帯電話にメールが届く仕組みだが、子どもの居場所がわかるだけで安心感につながるようだ」。また、プロの警備員がエリア内を常時巡回していること。緊急時には、すぐに駆けつける点も好評だったという。一方、「居場所検索」を積極的に利用する保護者は少なかった。
緊急通報に関しては、誤報の発生やサービスエリアなどの問題が浮き彫りになった。実験期間中に発生した緊急通報は53回で、そのすべてが誤報だ。「幸い事件は一件もなかった。しかし、ICタグを首から下げていると、鉄棒など遊んでいるときにボタンを押してしまったり、ランドセルの下敷きにして誤報が発生するケースが多かった」。そこで、ボタンを“長押し”しなければ通報しないタイプの端末を作り、誤報の多い子どもに持たせたという。
また、誤報が重なるにつれ、駆けつけ支援者たちの意識低下も見受けられた。「誤報が2日に一度くらいの頻度になったため、通報に慣れてしまう面があった。また警備員がくるまでの“つなぎ”という安心感もあったようだ」。実際、一つのスポットに30人程度の駆けつけ支援者を登録していたものの、実際に駆けつけた場合でも確認する手段はなく、また“駆けつけ支援者”であることが分からない場合がほとんどだったという。
インフラ面も課題が残されている。たとえば、レシーバ設置場所は東急バスのバス停や参加者の自宅が中心。「しかも参加者宅のブロードバンド接続に“相乗り”させてもらう形になった。決してベストポジションではなかった」。一方、見守りスポットの拡大や増設を求める声も多かったものの、「受信範囲は広げたいが、精度が落ちる」という障害もある。
3社は実験を通じて「保護者の間で子どもの安全についての意識が確実に高まっていると感じた」という。実際、実証実験に参加した保護者からは、警備員の配備も含めたサービスとしてであれば、月額2000円以上支払ってもいいという意見が半数を占めた。しかし、より大きな問題は、サービスにかかる費用のようだ。
「設備コストを利用者の要望する値段で提供するのは極めて難しい。自治体と住民がコスト負担を分担するなど、複合的な形を検討する必要があるだろう」。
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