発売日:2005年9月2日 価格:3980円 発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ 上映時間:112分(本編) 製作年度:1973年 画面サイズ:シネマスコープサイズ・スクイーズ 音声(1):ドルビーデジタル/モノラル/英語 |
1967年、“暴力、セックス、芸術……自由にめざめた映画の衝撃!”とのタイトルで「Time」誌が映画「俺たちに明日はない」の特集を組んだことで事実上、市民権を得ることになったアメリカン・ニューシネマ。
ベトナム戦争の混沌のなか、従来の良き隣人に囲まれた明るいアメリカの仮面を引っぱがし、その奥底に隠れふつふつとたぎっていた人種差別、性の解放、暴力、反体制、アウトサイダーなど、およそそれまでのスタジオが重心を置こうとしなかったテーマへの追求が、マイク・ニコルズ、ピーター・ボグダノビッチ、ジョン・シュレシンジャー、ジョージ・ロイ・ヒル、デニス・ホッパー、フランシス・フォード・コッポラ、サム・ペキンパー、ロバート・アルトマンという当時の無名若手作家たちによって次々と行われていきました。
「スケアクロウ」は、1969年、一気に同時公開された「真夜中のカーボーイ」「明日に向って撃て!」「ひとりぼっちの青春」「イージー・ライダー」「アリスのレストラン」「雨のなかの女」「ワイルドバンチ」で狂い咲いたニューシネマの頂点ともなった作品。1973年カンヌ映画祭にてパルムドールに輝いた本作は名実ともにその後、スピルバーグやルーカスの台頭で凋落していくニューシネマのターニングポイントとなったのです。
話はジーン・ハックマン演じるムショ帰りの男マックスとアル・パチーノ演じる船員ライオンとの哀しくも切ないロードムービー。刑期を終えたマックスが故郷ピッツバーグで洗車屋を開業しようとカリフォルニアの国道でヒッチハイクをしているところへ、5年前に妊娠中の妻を残して航海に出たライオンもまた家族のいるデトロイトに帰ろうとヒッチハイクをしにやってくる。道にふたりも男がいたんじゃ車も停まらないだろうと互いが協力しあううちに珍道中を始めていくというもの。
「カッコ悪いがカッコ良かった」70年代の臭いがぷんぷんするなか、本作公開の前年「ゴッドファーザー」、翌年「ゴッドファーザーPartII」で全世界を席巻するパチーノが、何とも言えないうらぶれたチンピラ船乗りを演じていて唸らせます。ニューシネマというのはひと言で言うと「破滅の美学」。人生はそんなにうまくはいかない、ちっぽけな幸せさえも手のひらからするりと落ちていってしまうのが人生なんだという〈哀愁〉こそが肝だったわけですが、この作品ではその辺りが、たまげるほどおいしく演出されています。
監督のジェリー・シャッツバーグとアル・パチーノはこの2年前に、彼の初主演作となる「哀しみの街かど」で組んでいて、その作品の中でも堕胎手術をした娘に麻薬の味を憶えさせ挙げ句の果てには淫売にまで落ちぶれるきっかけを与えるジャンキーを好演。互いに駄目な男のイメージが重なっていたようで、パチーノ演じるライオンが常軌を逸していく様は圧巻でした。そして相棒のジーン・ハックマンがまた実に良い。いつもの力を振りかざす男というパターンはここでは全く影を潜め、ただひたすら人生の酸いも甘いも知り尽くし、周囲が何と言おうと身の丈にあった生活を淡々と望むという地味で頑固な男を見事に演じています。
全編を通して流れる刹那的な敗北感は当時のアメリカの世相を反映したものですが、これが30年以上経った今、我が国の切ない世相に実にマッチしているのが哀しくも不思議。人と人とが身を寄せ合っても何にもならない。
人が幸せにならないシステムが確立されてしまった国の住人としては、実に共感できる大傑作と言えるのです。
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