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コラム
» 2005年11月04日 12時28分 公開

西正:日本独自の放送規格の必要性 (2/2)

[西正,ITmedia]
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 偏狭な国策論とかナショナリズムではなく、あるいは国の産業振興という視点だけでもない。安くて良い物があれば他所の物を持ってきて構わないが、それが日本の視聴者にとって本当にメリットがある物なのかどうかについては、改めて検討される必要がある。

 CS放送についての降雨減衰の懸念もそうだが、雨が多い日本だからこそ問題視されるのであって、ヨーロッパの人たちは雨が降ってKuバンドの衛星波が落ちたとしても、別に構わないという考え方が持たれている。つまり、放送に対する期待も大きく違うのである。

 日本の視聴者は放送に対する要求水準が非常に高いので、時間当たり雨量20ミリぐらいの雨で放送が止まるなどということは許されないのである。そうではない所でできた規格を、そのまま日本に持ってくることが、果たしてよいことなのかどうかという議論は、必要不可欠であると思われる。

 BMLを使うことなく、何か違うサービスでも構わないという議論を経た上であれば、海外規格の物を持ち込むこともあり得よう。

 かつてHDTVの規格を決める時に、日本の方式がローカルであると判断され、米国に負けたといった議論が流行った時期があった。あれは現象面だけで見れば、日本が提案していた方式が落とされて、米国の色々な企業がコンソーシアムを組んで、米国方式に最終的に決まったという形になっている。やはり米国は米国の周波数事情の中でベストな選択をしたわけであり、そこで日本方式が通らなかったから日本の技術が劣っているという議論は正しくない。今になって、米国では移動体での地デジの受信が全くできないということで、あの方式でよかったのかという議論を蒸し返しているくらいである。

 CASについても、言ってみれば暗号化された知的財産の塊(かたまり)である。ブラックボックスの一番根幹の所を、他所の国の企業に委ねてしまって構わないのかという議論も必要なはずである。何か障害があった時のメンテナンスの体制も重要である。こと放送について言えば、急に鍵が開かなくなってしまった場合などに、システムが直るのに1週間もかかるということは許されないお国柄だということでもある。コストについての意識も重要だが、クオリティの確保も重要である。安定したサービスを継続的に届けることは、十分にクオリティの問題であると言えよう。

 地デジのCASについての議論で言うと、三波共用機では引き続きB-CASが使われることになろうが、地デジのみに限った場合には、地上波放送事業者はNHKも民放も現行の受信料と広告というモデルを維持していく方針であるため、CASの仕組み自体は不要であり、コンテンツの保護の仕組みに特化した新たなDRMの開発がなされているということである。

米国のCAS

 米国では1998年に地デジが始まっており、少ないとは言え、既に何百万台という受信機が出回っている。米国におけるCASの仕組みは、ケーブルテレビやディレクTVなどの衛星事業者が個別に持っており、受信機としてCASの仕組みを持たせてスタートしていない。既に出回っている受信機を早くも買い換えるような施策が取れないことは当然であろう。

 そのため、日本のように受信機が出荷される最初の段階からCASが入っているという状況は、むしろ、うらやましいというのが米国の事業者の本音の声なのである。また米国の場合には、マルチウインドウ・リリース戦略が徹底されており、スポーツ中継にしてもハリウッド映画にしても、有料の仕組みからスタートすることになっており、最後の最後に地上波に来る。その分だけ地上波におけるコンテンツ保護についての意識が低いという事情もある。日本の場合は地上波が最大のマーケットとなっているだけに、そうしたコンテンツ保護についての感覚も大きく異なることを銘記しておくべきだろう。

 そういう意味でも、単純に海外の制度と比較して議論することが正しい結果につながるとは考えられないことは明らかだ。日本独自の放送規格を順守しようという姿勢に対する反発の声も大きいようだが、その必要とされるに至ったそもそもの理由まできちんと把握した上で議論を重ねていくべきであろう。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「IT vs 放送 次世代メディアビジネスの攻防」(日経BP社)、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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