マスメディア集中排除原則(以下、マス排)の制定趣旨は、放送事業者に対する出資などを制限することにより、特定の企業が複数の放送局を支配するのを防ぎ、放送における「表現の自由」をより多くの放送事業者に与えようというものである。
地上波放送の場合、放送事業者は同じ放送エリアにある他の放送事業者に対する議決権(株式など)の保有比率を10%以下に、異なる放送エリアにある放送事業者に対しては20%以下にしなければならない。
この規制が響いたのが、地上波のBS放送参入だ。2000年12月地上波民放キー局各社は、念願のBS放送への参入を果たしたが、同規制があるため別会社としてスタートせざるえなくなった。この別会社は地上波と同様の広告モデルで放送事業を行ってきたが、当初予想されていた以上の苦戦を強いられることになったのである。
そもそもBSデジタル放送は、それを受信できるテレビを普及させるところから始めなければならなかった。それだけに、既に日本全国で1億台のテレビが普及している地上波とは大きく事情が異なり、広告媒体としての価値をスポンサー企業に認知してもらうことが難しかったのだ。
加えて地上波とBSでは別会社が運用する形になったので、地上波で制作した番組をBSで使う際には、改めて売買契約が必要になってしまった。NHKのように地上波もBSも同じ法人で運用していれば、地上波とBSの間で一つのコンテンツ流し分けることも可能だが、民放の場合、そうはいかなかったのである。
民放各局のBS放送会社は、広告媒体としての価値を高める努力を続けながら、それと同時に番組の調達は自力で行わなければならなかった。これでは、経営が苦しい状況に追い込まれてしまったのも無理からぬ話と言えよう。
民放キー局系のBSデジタル放送も開局から5年目を迎えようとしている。受信可能世帯もようやく1000万件の大台を超えることになったが、「受信可能世帯=受信世帯」でないことや、視聴率が算定されていないといった事情もあり、広告収入の方はまだまだ1000万件相当の水準には及ばない状況にある。
そのため、民放キー局系のBSデジタル放送については、別会社形式にしておいたままではなかなか経営状況の改善はむずかしいとして、従来からマス排の撤廃が求められてきた。何しろ、別会社であるとは言っても大半のBS局は社屋が地上波局の中にあり、中核となる社員も地上波局からの出向社員ばかりである。規制だけが形式的に適用されていることが明らかだけに、その緩和・撤廃が求められてきたのは当然のことだろう。
総務省もそうした実態を踏まえて、これまでも何回かに分けて段階的に規制緩和を行ってきており、現在では民放キー局からBS局への出資比率は5割まで認められるようになった。もっとも形式と実態をあわせるべく規制緩和を行うのであれば、どうして何回かに分けて段階的に緩和してきたのかという真意は理解に苦しむと言わざるを得ない。
今や1000万件という大台に乗ってきただけに、民放キー局からはBS局についてのマス排は全面的に撤廃すべきだという声が多く寄せられるようになってきた。総務省もそれを受けて、今回は撤廃も視野に入れた検討に入るようである。
民放キー局からBS局への出資比率は、1/3まで、5割までと緩和されてきたことからすると、いよいよ最終的な落着点は100%まで緩和することであると思われがちだ。だが、それは大きな誤りであり、民放キー局が「1局2波」を認められるのでなければ意味がない。
というのももし100%子会社になったとしても、“別会社”であることには変わらないからだ。例えば、コンテンツについての著作権処理についても、別会社であれば、あくまでも別々の取扱いになってしまうからである。
100%子会社であれば、連結対象として財務上は全部一緒になるかもしれないが、コンテンツについての権利は別になるため、それを地上波とBSで共有して使うことはできない。つまりマス排の問題の本質的な解決を図ろうとするのであれば、100%の出資を認めるのではなく、あくまでも1局2波を認める形にしないと意味がないのである。
CS放送の中で非常に成功しているチャンネルとして、「フジテレビ721」、「フジテレビ739」があるが、両チャンネルの委託放送事業者はフジテレビである。つまり、フジテレビの中のCS部が運営しているから、コンテンツの権利処理も比較的容易に行えるのである。
ところが、BSフジになると、フジテレビとは別会社であるから権利処理は別会社として行わなくてはならないため、コンテンツの調達コストも高くなってしまう。こうした事情は民放キー局各社に共通するものである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR