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電気用品安全法は「新たなる敵」か (Side A)小寺信良(2/3 ページ)

» 2006年02月20日 10時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

問題はどこにある?

 一見良さそうな法律に見えるPSE法だが、今ネットで騒がれている問題の大枠は、この法律が中古市場に与える影響である。すでに大手中古流通業者や楽器店などが、PSEマークのない製品の買い取り中止を表明したことで、消費者の不安が拡大した。

 PSE法は、基本的には製造・輸入・販売の3業者に対する法律である。そして中古販売事業者は、これを除くと明示されてない以上、「販売」の業者に含まれることになる。PSEマークの有り無しで影響を受けるのは、市場に出てから数年が経過したのち、再び売られるという時間差が存在する、中古市場がもっとも大きい。

 法改正時に、当然このことに気がついてしかるべきだろう。だがこれには、中古販売業者を除外できなかった事情があるようだ。

 「以前ですが、新品で製造したもので安全基準に合致していない製品が中古として流通している、という情報があったんです。調査したところ真偽のほどは明確にならなかったんですが、実際にそういう可能性は否定できない。何かあったらこの法(PSE法)を運用して、中古市場で問題があった場合に対処する、という体制になっているわけです」(福島氏)

 つまり、(本物の)中古品は危険だから市場を縮小させるとか、そういう論理でこの法を動かすわけではないということである。むしろ中古品だったから火災になった、という事例は少なく、むしろ電化製品が故障などのトラブルが発生しやすいのは、使い始めて1年未満の、いわゆる初期不良期間が一番多い。実は中古品とは、長期ランニングテスト完了済みということで、実態は新品よりも安全性が高いという見方もできるのである。

 加えて市場規模という点では、法改正された1999年当時、中古市場は電気製品市場の約1%しかなく、経産省としても積極的に中古製品の安全性について具体的な措置を講じる必要性を感じていなかったようだ。敢えて中古市場を例外にはしないが、逆に「中古市場を含む」とも明示されていないココロは、このあたりにある。

 平たく言うならばPSE法は、「中古市場は眼中にないんだけど、かといって例外にするとそこを突いて悪いことするバカが出るので外せない」という、実にユルいというか、そっちも困るでしょうけどこっちも困ってるんですトホホ、という性格であるがゆえに、みんなが混乱するのである。

 もう一つ、この法の周知が足りないという問題がある。一方で経産省では、周知活動はしてた、と言う。実際に同省では、法律が改正されて施行されるまでの間の2000年には、法の改正に関するパンフレットを20万部前後作成して、業界団体を通じて製造・輸入・販売の各業者に対して配布している。またセミナーなども定期的に開催して、情報の周知に努めてきた。

 しかし「知らなかった」という業者が存在するという事実も同時にあるからには、何かそこにすれ違いがあったはずだ。販売事業者向けに作られたパンフレットのコピーを入手したが、その表紙には「販売事業者の皆さん、電気用品の表示が変わりました」とある。

photo 経産省が1999〜2000年に配布した販売事業者向けパンフレットのコピー

 長年広告に携わってきた人間から言わせていただくと、このタイトルが意味するところは、「こっちで勝手にやることなんで、よろしくね」という程度のニュアンスしか伝わってこない。つまり、オマエらにも責任ありますから、みたいな緊迫感がないんである。

 一応内部を読めば、「適正表示のない電気用品を販売すると、新たに販売事業者にも回収命令が出されることがあります」との表記もあるが、これもあまり緊迫感がない。だいたい電源部にしか表示されないマークを、販売店がいちいち梱包を全部開けて全品検査するわけにもいかないのではないか。

photo 販売店に関与する記述もあるが…

 反対にこのパンフレットからは、「ヒトゴト感」が漂ってくるのだ。販売店側もこのパンフレット自体は見たことがあっても、それがのちにこんな大きな波で襲いかかってくるとは思うまい。知らなかった、という裏には、こういう要素もあるのではないか。

 経産省としては、実際にこのマークの付いた製品が市場に出回ることで、PSE法の情報も一緒に流れていく、という予測はあっただろう。実際にそのような伝播の仕方をした例もあるだろうが、逆にそれが裏目に出たのが、中古販売業者である。

 中古販売とは言うまでもなく、いったん製品が消費者のところに買われて使われたのち、それを引き取って再び市場に戻す事業である。そしてこの、「いったん消費者を経由する」という部分で、業者間なら行なわれたであろうPSE法に関する情報の伝播が、止まってしまうのである。

 また中古販売業者は規模が小さく、またお互いが独立独歩で厳しい競争の中で営業していることもあって、横のつながりがほとんどない。ましてや中古販売業者全体が加盟する大きな組織や団体などもなく、こういうことの周知も窓口になるところがないのも、問題を大きくしたと考えられる。

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