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コラム
» 2006年03月24日 17時18分 公開

西正:放送規格にデファクトスタンダードは向かない (1/2)

わが国の放送規格は、放送局とメーカーが中心となり構築されてきた。関係者間だけで決めてしまうのではなく、市場原理に任せるべきだとの声もあるようだが、放送規格は市場原理になじみにくい。デファクトスタンダードで規格を決めるには明らかに不向きな領域である。

[西正,ITmedia]

ライフラインと市場原理

 新たなサービスが登場してくる時には、開発した者ごとに複数の規格が提唱され、どちらが優れているかを市場に問うという手法が用いられる。まさに市場原理、競争原理そのものであり、そこで勝ち残っていくために自社のサービスに磨きをかけることが求められることにより、サービスの機能が高度化していく効果を持つ。こうして市場で勝ち残った規格が、デファクトスタンダードと呼ばれる。

 事前に関係する事業者間が調整を行い、市場には統一された規格のサービスが投入されることもある。そうした手法は、いわゆる「談合」的なイメージに受け取られがちだが、消費者を市場競争に巻き込むことなく済ませられるとの長所もある。

 どちらの方が優れているかは一概に論じることはできない。関係事業者間で規格を事前に調整してしまうと、競争をなくすことができるため、事業者に有利な結果になりがちである。その最たる物が「談合」ということになるため、昨今では市場の判断に委ねる方式の方が適切であると判断されるケースが多くなったのは事実である。

 ただ、サービスの性格によっては、事前の調整がなされた方が消費者に要らぬ迷惑をかけずに済む。市場原理の特徴は、市場に出された複数の規格のサービスの中から、消費者が自己責任で便利であると思うものを選択していくことになる。より多くの消費者が選択したサービスが勝ち残り、敗北したサービスは市場から駆逐されていくのだ。勝ち残った規格がデファクトスタンダードとなるわけであり、過去にも色々なサービスがこの方式でデファクトを勝ち取ってきた。

 最も印象的であったのが、アナログVTRが世に出てきた際のVHS規格とベータ規格の争いであろう。最初から誰の目で見ても優劣が明確であったわけではない。実際に、競合を開始した当初は、ベータ規格の方が優勢であると伝えられたし、サイズも小型であり品質も高いと評された。

 しかし、デファクトを勝ち取るための要素は、必ずしもサービスの良し悪しだけで決まるわけではない。VHS規格とベータ規格が争った際は、電機メーカーの多くがVHS規格側で提携することになり、またパッケージソフトを提供する事業者もその連合側についたため、結果としてベータ規格は敗北するに至った。

 市場における競争原理が働いた結果である以上、デファクトとなったVHS規格は非常に多くの消費者の支持を得たことになるため、消費者本位に適った規格の決め方であったと評された。

 ただ、逆に言えば、最初から明らかな優劣が見られたわけではなく、むしろベータ規格の方が優れているとの評判も高かったことがあって、ベータ規格の機器を購入した消費者がかなりの数に上ったことは確かである。デファクト競争に敗れたベータ規格を選択して購入した消費者は、自己責任であるために何ら補償など受けることはなかった。アナログのVTRを利用したいと考えた消費者は、改めてVHS規格の製品を購入し直すことになったのである。

 電機メーカー各社がアナログのVTRを市場に投入する前に調整を行い、VHS規格とベータ規格のどちらを標準にするかを決めていたなら、結果的に使えなくなってしまったベータ規格の製品を購入した消費者を未然に救えたことであろう。

 ただ、事前に事業者間で調整を行うことが「談合」という言葉を使って警戒されるのは、事前の調整を行う目的が必ずしも消費者を守るためではなく、競争を排除することにより競争にかかるコストを減じようとの狙いからなされるケースが多々見られるからである。競争がないのをいいことに、価格なども高めに設定してしまうことも可能になる。

 規格を決める手続きに透明性が求められることになった所以(ゆえん)でもあるが、一長一短があると言わざるを得ない。

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