一方で同じく円盤メディアのDVDビデオカメラも、その動向は興味深い。この分野の先駆者は日立だが、最終的に大きなパイを取ったのはソニーだ。ソニーは日本よりも1年早く米国でDVDビデオカメラを投入し、これが当たった。
もちろん莫大な広告費を投下しての事なので、ある意味当然の結果であると言える。その勢いで日本でもラインアップを充実させ、市民権を得た格好となった。
今が商機と見たのか、ここでパナソニックが勝負に出た。これまでパナソニックは、DVDカメラに関して日立と共同開発の製品を投入してきた。デザインなどの面で多少違うものの、カメラ部やソフトウェアなどを見ると、実質は日立製であると言ってもいい作りであった。過去DVDビデオカメラの日本市場における(世界市場でも同じぐらいだが)割合は、ソニー7割、日立2割、パナソニック1割といったところであろう。
だが今回はパナソニックがDVカメラで得意としている3CCDをDVDビデオカメラに搭載し、完全パナソニックオリジナルモデルとして製品を投入してきた。DIGICAM D300こと「VDR-D300」のテレビコマーシャルは、3月にかなりの回数放映されたので、ご覧になった方も多いだろう。
実際にこのモデルは、パナソニックのDVDビデオカメラとしては過去例を見ないほどに売れている。調査会社GFK Japanの2006年4月3日〜9日のデータによれば、DVDビデオカメラ部門において、ソニーの「DCR-DVD505」に次いで第2位となっている。なんだ1位じゃないのか、と思われた方もいらっしゃるかもしれないが、日立を抜いてじり貧からいきなり2位は、立派な成績である。
ただDVDビデオカメラは、日米でその使い方が異なる。日本ではリライタブルメディアを使って撮影時のメディアを使い回し、最終的には12センチDVDにまとめる、という指向が強い。
一方米国では、単価が安いライトワンスメディアを使って撮影し、まとめたり編集したりなどまったくしない。単にDVDならどこでも見られるしコピー配布も簡単だから、という大量消費型指向である。
さすがのソニーも、米国での使用例を先に見ていたため、日本市場での初動は若干方向性を間違っていた感がある。DVDコンテンツの再編集ソリューションをほとんど用意しないまま、スタートしてしまったのだ。ソニーのDVDカメラは、サラウンド音声収録がデフォルトになっているが、AC3 5.1chサラウンドのMPEG-2ストリームを編集できるソフトウェアというのは、かなり限られる。
だが米国的なDVDビデオカメラのあり方は、整理好きな日本文化と組み合わさって、別のソリューションを形成するかもしれない。
2006年3月の段階で、ビデオカメラで総合1位を記録しているのは、ソニーのHDVカメラ、「HDR-HC3」である。発売初月(つまり3月なんだが)だけで4万台のセールスを記録したというから、2日で5万台を売ったという伝説を残したCCD-TR55ほどではないにしろ、ビデオカメラとしては近年まれに見るヒット作と言えるだろう。
あきらかに消費者は、ハイビジョン画質で録画できることに対して、高い付加価値があることを認めている。もちろん各ビデオカメラメーカーも、ハイビジョンカメラの研究・開発は行なっているはずだ。問題は、いつGOサインを出すかである。
前作の「HDR-HC1」、今回の「HDR-HC3」が売れた理由は、意外にもそれがDVテープメディアだったからではないかと思っている。容量やランダムアクセスといったメリットから、HDDタイプのハイビジョンカメラを切望する声が市場から出てくるのは当然だが、これらの固定メディアでは、撮影した映像をPCなりに吸い上げなければならない。
では吸い出したハイビジョン映像を、どうするのか。この答が、今はないのである。快適に編集するには普通のパソコンには荷が重すぎ、保存に適したメディアもなければ、それがガンガン再生できるハードウェアもない。つまり後処理や利用シーンのことを考えると、とたんに行き詰まるのである。
だが単価が安く長期保存実績もあるDVテープであれば、とりあえず撮るだけは撮っておいて、後処理が快適にできるようになるまで、テープのままでほっておけばいい。つまり、問題を先送りすることが可能なわけである。
子供の成長は待ったなしだ。特に入学、卒業といった節目のイベントは、その年でなければ撮れない。こういう期間限定イベントがある場合、まずはハイビジョンで撮影だけしておこう、という心理なのである。
ハイビジョンカメラは、HDVフォーマットで参入するなら今からでも可能だが、HDDやメモリタイプでの参入は、記録型のHD DVDやBlu-rayがリリースされてからになるだろう。またそうなったとき、DVDビデオカメラは衰退するだろう。DVDメディアには、ハイビジョン画像を記録できる可能性がないからである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR