現在理研には、ビームを光速の15%まで加速することが可能なサイクロトロンがある。そして、いま新たな液体窒素で冷やした超伝導磁石による超伝導リングサイクロトロン(SRC)が建設されているのだ。これを使うとビームを光速の70%まで加速することが可能だ。いままで、SRCは発生する磁気のために自分から壊れてしまい構造的に持たないとされていたのだけれど、鉄のかたまりを注入することで、それを防ぐことに成功したという夢のマシンでもある。
まだ、外側の電磁石がおかれて、その磁力を測定している段階ではあるが、今年中にはサイクロトロンとして稼働する予定になっている。来年の公開では、実際の姿を見ることができるだろう。
リニアックやサイクロトロンは、新元素を作るためだけに作られたわけではない。ビームは「ポイント切り替え」でいくつもの実験室に送られるようになっており、それぞれいろいろな研究が行われている。
代表的なものに、宇宙でどのように元素が作られたかということがある。ビッグバンで宇宙ができたとき、そこには元素番号1番の水素と2番のヘリウムせいぜい3番のリチウムくらいまでしかなかった。これよりも重たい元素は恒星の内部で作られるのだ。しかし、ここで作られるのも鉄まで。もっと重い金や鉛やウランはいつできたのかというと、超新星爆発のときなのである。
この過程を再現する実験も、サイクロトロンの出番である。こちらは、113番元素よりももっと普通にある安定な元素を作ればいいので、ずっと弱いビームでOKだ。
変わったところでは、ビームをぶつけることで得られた放射線を植物の種や枝に当てるということもある。このようにして、放射線で遺伝子を傷つけ人工的に突然変異を起こそうというわけだ。どういう風に傷つくかは全く予測はつかないギャンブルだけど、運良く突然変異がおきて(何も起きない可能性が一番高い)、それが有用な性質のもので、次世代にも受け継がれるものならば、それは新品種である。自然環境では宇宙線によってのんびり起こされる現象を、すこしばかり気短に起こしてしまおうというわけだ。
そうやって、放射線を浴びた朝顔の種をもらって来た。なんか変わったことは起きるだろうか。
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