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専門チャンネルの編成の難しさ西正(2/2 ページ)

» 2006年06月02日 09時46分 公開
[西正,ITmedia]
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番組表に頼らない編成を

 専門チャンネルの編成を行う上で、時間帯ごとに適当なコンテンツを用意する以上に配慮しなければならないのは、分かり易い編成を行うことである。

 地上波の場合には新聞のラ・テ欄で大きく番組表が掲載されていることから、何時にどんな番組が放送されるのかがすぐ分かるようになっている。一方、専門チャンネルについてはガイドブックなどに番組表が載っているが、数多くのチャンネルの物を掲載しなければならず、原稿を用意する作業も早めに行わなければならないせいか、番組表と呼ぶにはあまりに放送内容が分かりにくい出来上がりになっている。

 地上波の本当の強みとは、実際には新聞のラ・テ欄などを見なくても、視聴者が習慣的に何曜日の何時には何の番組が放送されるかを記憶してしまっていることだ。フジテレビの「月9」に代表されるように、月曜夜のトレンディ・ドラマというだけで放送時間まで分かるようになっている。

 専門チャンネルの方はガイドブックを見てもなかなか分からないという状況であることからすれば、両者の違いはあまりにも大きい。もともと専門チャンネルは一部のショッピング系を除けば、「ながら視聴」の対象となりにくい。むしろ、何らかの番組を見ようと決めて、正面から向き合うようなところがある。その「何らかの番組」がいつ放送されているのか分からないようでは、ペイテレビの視聴シェアが米国に比べて低いと言ったところで、高くなりようがないとすら思われてならない。

 基本的に1つのジャンルの中で番組編成をするので、地上波のような抑揚をつけようがないと諦めてしまっては、視聴世帯の拡大などおぼつかないだろう。1日の時間帯だけを見ても、それなりの視聴者層の違いは見当が付くのであるから、後は視聴者の記憶に残り易い編成を行うべきであり、記憶に残り易くするためには、ある種のパターン化を図らなければならないはずだ。

 早朝は「懐かしの○○アワー」でも構わないし、昼前や午後のひと時は「忘れられない○○シリーズ」でも良いのではなかろうか。ネーミングをちょっと工夫するだけでも、曜日や時間帯だけで、放送される作品の手がかりは得られる。1つのジャンルと言っても、映画にも色々な映画があり、ドラマや音楽にも色々な種類の作品がある。70年代のロックンロールは夜の11時台の定番だという具合に、視聴者の頭に何らかの記憶を手繰る手がかりさえ残せれば、その時間にテレビを見ようと思った時にはガイドブックを手に取って、今日は何をやっているのか探したくなるものだろう。

 時代劇専門チャンネルの編成を見ると、1週間の平日の編成が簡単に記憶できるように作られている。午前8時に放送した番組が午後8時に再放送される。他の時間も同じルールである。これなら、8時というだけで、午前でも午後でも、楽しみにしているシリーズ番組を見逃すことはない。同チャンネルの視聴者の年齢層が高いことにも配慮した試みである。

 同チャンネルの編成方針に感心したのは、深夜の3時、4時に番組を放送しない理由についてである。CS放送は大雨や大雪の時に映らなくなることがある。そうなると、視聴者からは大変なクレームが来ることになる。編成を1日24時間フルに埋めてしまうと、映らなかった番組を改めて放送する枠が無くなってしまう。そこで、深夜ならば視聴者の数も少ないだろうということで、深夜の3時、4時は非常用に編成する場所として空けてあるという。実際、その枠に編成し直すことで何度か救われたということであり、再放送も多い専門チャンネルならではの編成の工夫を垣間見た思いがした。

 以上のようなことは時代劇だから出来るということだとは思わない。時代劇専門チャンネルのラインアップを見れば、若者からお年寄りまで楽しめる非常にバラエティに富んだ作品が巧みに編成されていることが分かる。

 専門チャンネルならではの編成の妙というものは間違いなくある。地上波のように豊富な制作資金をかけられなくても、手元のラインアップを視聴者に分かり易く示すことが出来れば十分なはずである。

 誰しも一日中テレビばかり見ているわけではないし、その限られたテレビ視聴時間の多くは地上波が取ってしまうかもしれない。それでも、有料の専門チャンネルと契約する人たちに対して、どうしたら分かり易く見られるように工夫するかが、これからの本格的な多チャンネル時代に生き残るための決め手となるのではなかろうか。


西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「IT vs放送 次世代メディアビジネスの攻防」(日経BP社)、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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