(C) 2006「博士の愛した数式」製作委員会 |
本屋さんの店員が面白い本を選ぶ「本屋大賞」。今年でまだ3回目という、その歴史は浅いが、すでに読書好きの間には定着している信頼性の高い賞である。この記念すべき第1回の大賞受賞作となったのが小川洋子の「博士の愛した数式」。ちなみに、第2回の受賞作は恩田陸の「夜のピクニック」、第3回目はリリー・フランキーの「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」であった。
165万部の大ベストセラーとなった「博士の愛した数式」を映画化したのは、「雨あがる」で長編劇場映画監督デビューを果たし、「阿弥陀堂だより」も絶賛された小泉堯史。
さて、この作品の主な登場人物は博士、その義理の姉、博士の世話をするために雇われたシングルマザーの家政婦と、博士からルート(√)とあだ名をつけられた彼女の息子である。天才数学者の博士は交通事故により記憶が80分しかもたない。そんな博士と母子の交流を繊細なタッチで紡いでいく。
物語は高校の新任数学教師となったルートが自分のあだ名の由来を語り始めるという、回想形式の授業で進む。
寺尾聰扮する博士が初対面の家政婦に「君の靴のサイズはいくつかね」と聞く。「24です」と答える彼女。博士は「実に潔い数字だ。4の階乗だ」と微笑む。4の階乗とは24=1×2×3×4、つまり1から4までの整数をかけあわせていくと24になるということである。その後も博士は身の回りの数字を聞いては、満足げに微笑み、数式に結びつけていく。
記憶が80分しかもたない博士はいたるところに、重要な出来事を書きとめている。それでも翌朝になれば、同じ行動と同じ質問を繰り返すのだ。このやりとりに呆れ、何人もの家政婦が辞めていった。ところが、深津絵里演じるこの家政婦は嫌な顔ひとつせず丁寧に答える。毎朝、聞かれる靴のサイズに、いつしか「24です。4の階乗です」と付け加え、博士を喜ばせるのだ。
博士の心優しき計らいで、鍵っ子の息子がこの家に通うようになり、頭のてっぺんが平らだからルートと名づけられる。「どんな数字でも嫌がらずに自分の中にかくまってやる、実に寛大な記号、それがルートだよ」優しく説明する博士。こうして10歳の息子は、学校が終わると、博士と貴重な時間を過ごし、沢山の大切な贈り物をもらうことに。この出会いが博士と母子それぞれの心の拠り所になっていく。
見る前は数式、数学というだけで拒否反応を起こしていたが、見終わると数字が愛おしく思える。素数、虚数、友愛数……数学や数式の中に愛とロマンが潜んでいること。それが、博士と母子のやりとりと、ルートの授業から伝わってくる。こんな授業を受けたかった、と感じさせてくれるはずだ。
決して派手さはない、というよりむしろ地味な作品だが、日本映画の、そして日本人の良心、温かさやユーモアがこの作品には溢れている。
キャストは小林監督作品常連の寺尾聰が、記憶障害の博士という難役を抑えた演技で好演。また、家政婦役の深津絵里、物語の語り部となるルート役の吉岡秀隆が爽やかな演技を見せている。
特典は完成披露試写会や公開初日の舞台挨拶の模様などを収録。初回生産分のみアウターケースが付くのでお早めに。
関連サイト:http://www.hakase-movie.com/(公式サイト)
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