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変わりつつあるクラシックカメラの世界小寺信良(3/3 ページ)

» 2006年07月31日 12時50分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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 ただ、クラシックカメラを扱う店は敷居が高いと思われていることもまた事実だ。これはアキバにかつてあった高級オーディオショップも似たようなもので、一見さんお断わり、一度入ったら手ぶらでは帰れないどよどよーんとした魔境のようなイメージが付きまとう。

 「女性一人ではお店に入るのが怖いっていうのをよく聞きます。おじさま達が高尚にカメラを見ていたりというイメージがあるじゃないですか。でもホントはそういうところほど女性のほうが得ですけどね、怒られないから。ただ勝手に触ろうとするのは、やめた方がいいと思いますね。お店の人に触っていいですかって聞かないと。あと、わかんないのを無理に開けようとしない。全部使い方を教えてくださいって聞いちゃうほうがいいです」(入倉さん)

 実際に前出の「中古カメラBOX」に行ってみると、怖そうな雰囲気は全くない。入倉さん曰く、「ドンキホーテのような感じ」だというが、筆者はアキバのジャンク屋に近い気がする。もちろん中には職人気質の店もあるわけだが、フレンドリーな店もあるということである。

photo 35mmフィルムでスクエアフォーマットの写真が撮れるZEISS IKON TENAX II
photophotophoto ZEISS IKON TENAX IIで撮影した作品

 お店の人とのやりとりにプレッシャーを感じる人が居るのは事実だろう。カメラ量販店の展示では、とにかく誰でも自由に触って、店員も声をかけないのが良しとされている。つまり量販店は、これまでのカメラ店とは全く逆の接客技術を構築することで、今の地位を築いたとも言えるわけである。ただこのような展示は、問題が多いと入倉さんは指摘する。

 「今の人たちって、勘違いしてるんじゃないかな。逆向きに回してみたりとか、量販店で展示品のカメラの扱いが酷いもの。自由にお試しくださいって、壊れてもいいっていう自由じゃないでしょうってことですよ。その点お店の人とやりとりする関係みたいなのを学ぶのには、中古カメラ屋さんはいいかもしれないですよね。なかなかそういう機会がないでしょ、『おやっさん』みたいな人がいて教わるというのは。買わなくたって、すいませんありがとうございましたって一言言えば大丈夫なのに、その一言が言えない人がすごくいますね」(入倉さん)

 写真が写る原理自体は、とてもシンプルだ。だがそれをどう使わせるのか、先人の知恵に学ぶ部分は少なくない。クラシックカメラの面白さは、おそらく今のデジカメでは味わえない本物の緊張感(テンション)なのではないかと思う。

 「こんなところが開くのかとか、このボタンは何だとか、そういうワクワク感が最近のデジカメにはないのかもしれないですね。それによく撮れて当たり前なのがつまらない。失敗は楽しいですよ、思いもよらない絵になったりとか。失敗したのが次は綺麗に撮れたときは、やっぱりうれしかったり」(入倉さん)

 撮ること自体に費やす時間が、デジカメとクラシックカメラでは全然違う。写真好きの日本人が、いつの間にかその手間に耐えられなくなってしまった。大量の映像に晒される現代では、映像に対する良し悪しを見分ける目は格段に育っている。せっかくその目はあるのに、自分では作り方を知らないというところに、大きな歪みがある。

 「すべてがオートっていうのはそれはそれでいいかもしれないけど、仕組みがわかってて楽しむのとはちょっと違う。便利さと楽しさの違いみたいな感じもします。私もクラシックカメラ使うようになってから、もうちょっとデジカメの記事でこう書いときゃ良かったとか結構出てきてます。見方とか撮り方とかが変わりましたね」(入倉さん)


小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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