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躍進するペンタックスの意欲作――「K10D」の開発者に聞く(後編)永山昌克インタビュー連載(2/3 ページ)

» 2006年11月01日 21時20分 公開
[永山昌克,ITmedia]

リチウムイオン充電池を採用した理由

――K10Dの電源を、これまでの単三形電池対応から専用のリチウムイオン充電池に変更した理由は?

畳家氏: これだけの膨大で複雑な画像処理を行うには、より安定した電力の供給が求められるためです。単三形アルカリ電池の場合、世界中を見渡すと様々な種類のものがあり、そのどれを使っても最低限動かなければなりません。600万画素クラスでは問題ありませんでしたが、今回のK10Dでは安定したコントロールを得るのが困難でした。そこでK10Dは、たとえバッテリーグリップを使っても単三形電池が一切使えない、割り切った仕様になっています。結果的には、リチウムイオン充電池にしたことで電圧がアップし、モーターのパワーが高まり、AFスピードが高速化したメリットもあります。

photo 「DA 40mm F2.8 Limited」とバッテリーグリップ「D-BG2」を付けた状態

――レリーズタイムラグは向上しましたか?

畳家氏: ミラーがアップダウンする際のファインダー像の消失時間については、K100Dと大きく変わりませんが、それ以外の処理系のプロセスを短縮化したことで、レリーズタイムラグを従来機より短縮できました。具体的な数値はメーカーとしては出していません。数値だけが一人歩きするのは本意ではありませんから。それに、各社とも数値の測定は自社基準ですので、比較してもあまり意味がないかもしれません。

――ベータ機を試用した印象ですが、レリーズ時のミラーショックが大きいと感じました。

畳家氏: おそらくミラーダウンのショックだと思いますが、シャッターが閉じた後の動きですので実際の撮影にはあまり影響がないと考えます。とはいえ、カメラの質や連写時の安定性という意味ではおろそかにはできません。他社の一部の高級機のように贅沢なミラー駆動にしているわけではありません。このK10Dでは、そこまでの対策はできませんでした。

――連写速度3コマは、このクラスのカメラとして十分だと考えますか?

畳家氏: 正直なところ、使っているデバイスの制約です。CCDの転送速度や2チャンネル読み出しという物理的な制限で、秒間3コマになります。今後、より高速を求める要望が多く寄せられれば、コストアップはしますが、例えばさらに高速な上位機を検討する必要はあります。

――ホワイトバランスの設定メニューが大きく改良しましたね。

畳家氏: コンパクトデジカメでは、スルー画を見ながらホワイトバランスを設定できますが、デジタル一眼レフ機では構造上それができません。そこで、「*ist DL2」以降で採用しているデジタルプレビュー機能を、K10Dではホワイトバランスの設定画面に応用しました。ホワイトバランスを設定する際に、設定する対象物のデータをいったん取り込み、その絵を見て効果を確認しながら最適なホワイトバランスを選択できます。

photo ホワイトバランスの設定メニュー。オートやプリセット、マニュアルで設定でき、微調整もできる

ペンタックス初のゴミ除去機能「DR」

――新機能のひとつゴミ除去機構DR(ダストリムーバル)はどんな機能ですか?

畳家氏: 当社の手ブレ補正機構SR(シェイクリダクション)は、センサーを微妙に動かして補正を行いますが、それをゴミ除去に応用しました。原理を簡単にいえば、CCDをいったん上に上げ、逆の力で下に落として付着したゴミを除去します。手ブレ補正を開発する過程で生まれたアイデアであり、以前からパテントを押さえていました。しかし実は、それのみでは大きな効果を得られなかったため、当時すでに仕様が固まっていたK100Dでは搭載を見送りました。

 一方ほぼ同時期に、交換レンズとして「SPコーティング」を施したフィッシュアイズームを開発しました。SPコーティングとは、特殊なフッ素系の物質を蒸着させることで、レンズの表面に撥水性や撥油性を持たせる独自の技術です。例えばレンズの表面を油性マジックでなぞっても、その汚れを簡単に拭き取ることができます。

 そのレンズのコーティングを、CCDの前面にあるローパスフォルターに応用すれば、ゴミやホコリが吸着しにくくなります。中には、それでもまだ付くゴミはありますが、コーティングによって吸着する力が弱くなったことは確かです。そこで、このSPコーティングの技術と、昔からのアイデアであるCCD駆動の処理を組み合わせることで、実用性の高いゴミ除去が可能になりました。落としたゴミは手ブレ補正ユニットの下にある粘着テープにくっ付くようになっています。

 この3段構えのゴミ対策は、K10Dでアピールしたい部分のひとつです。ただし、どんなゴミでも100%取れるという表現はできません。このことは当社に限りませんが、特に日本は湿気が高く、水分を含んだホコリやゴミが多くあり、中には取れないケースもあり得ます。それに対するケアも最後まで欠かせません。

 なおダストリムーバルを作動させた瞬間には、CCDが動いた振動がボディに伝わり、中には違和感を覚える人もいるかもしれません。そのためデフォルトでは作動オフにしていますが、起動の際に自動作動する設定に切り替えていただくのがお勧めです。

――ダストリムーバルが電池寿命や耐久性に与える影響は?

畳家氏: 作動には電力を使っていますが、わずか約200ミリ秒の動作なのでバッテリーライフに影響を及ぼすレベルではありません。耐久性については、動作はすべて電力と磁力で行っていて、メカニカルな部材つまり磨り減るような部材はありません。またCCDに与える衝撃については、デバイスのメーカーさんとどの程度までの衝撃に耐えるかをきっちり取り交わした上で、さらに当社としての保証マージンを加えて、重力加速度の設定をしています。お客様が使用する上で、耐久性を心配をする必要はありませんし、性能が劣っていくこともありません。

――除去して粘着シートに付いたゴミはどうなりますか?

畳家氏: 例えば1カ月使用して、ゴミが1万個溜まることはあり得ません。それに、通常の使用で問題になるゴミの量は、シートの面積に対して圧倒的に少ないといえます。むしろ我々としては、シーンの粘着力が経年劣化することを当初心配していました。これに関しては、家庭にある両面テープのようシートではなく、より粘り気のある粘着系の素材を材料メーカーとやり取りしながら採用し解決しました。したがって、カメラとしてお使いいただいている間はメンテナンスフリーです。どうしても要望があるお客様に対しては、サービスセンターでシート交換ができる対応を現在検討中です。

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