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行動原理から見る購買層と購買力小寺信良(1/3 ページ)

» 2007年01月09日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 AV機器やアクセサリなどを常に見ていると、これは誰に向けて売っているのか、あるいは誰が買うのか、というところが気になるものである。もちろんメーカーさんの商品説明会などに行けば、必ずターゲットとなる消費者像の話になるわけだが、ここ1〜2年でそのターゲットが少しずつ変わってきたように思える。

 例えば最近注目を集めているものに、音楽用ステレオヘッドフォンがある。大手量販店に行けば、そこそこのスペースを取って大量に展示してあるので、ああだいたいああいう製品群ね、とおわかりいただけるだろう。

 これらのブームの背景には、iPodを始めとするポータブルオーディオがヒットしたことがある。その中でも、本体そのものを変えるのではなく、もっと手軽にアクセサリを変えるだけで大きな変化が体験できる、というところが受けた。

 これはケータイのストラップや保護シートを変えるといった変化とは、若干質が違うように思う。もちろんフィット感や見た目の変化もあるが、音質という「質の変化」は、使用者自身の満足度に直結する、ある意味非常に内省的な消費行動と言える。

 オーディオアクセサリが注目された理由は、幅広い価格設定もあるだろう。だいたい3千円台ぐらいでそこそこ質のいいのものが手に入るというのは、ちょっとした贅沢感を味わうのに手頃な値段だ。だが一昨年あたりからは、もう少し値の張る1万円から3万円程度の高級タイプが売れ始めてきた。これの意味するところはなんだろうか。

高いモノが買えない世代

 あるオーディオメーカーの商品企画担当者は、もし10代から20代前半の人にヘッドフォンを企画する際、価格が1万円まで行くと厳しいという。以前ならば、いかに若い人に対してブームを作っていくかということに、各メーカーは腐心したものである。なぜならば、流行を産み、そしてそれに簡単に乗るのが若者の在り方だったからだ。しかし今は事情が変わってきている。

 まず、ヘッドフォンは通常本体、つまりiPodなどに付属しているものだ。もともと別途買わなければならないものなら仕方がないが、付属品でちゃんと機能を果たすものに対して、わざわざ別のものを買うからには、それだけのモチベーションが必要となる。つまりそれは、音質が不満とか、みんなと同じものはイヤだとか、そういう理由だ。

 10代20代の青年層であっても、別途ヘッドフォンを買うというモチベーションは変わらないだろう。だがこれらの層には、1万円以上のヘッドフォンを買う金銭的、あるいは精神的余裕はない。

 筆者ら40代の世代が自らの青年時代を振り返ってみれば、「そんはなずはないだろう」と思ってしまう。というのも筆者らの世代は、「オーディオはちゃんとやるとお金がかかる」ということが知っている世代だからだ。いわゆる「コンポーネントステレオ」の時代だったのである。

 だが現代は定額制サービスの時代だ。携帯電話やISPを筆頭に、音楽配信やネットゲームなど、魅力的なサービスに対して毎月定額量を支払っている。これは高い物品を購入したときのローンとは違って、ある意味終わりのない支払いだ。どこまでも払い終わることもないし、払い終わった結果自分の所有物になることもない。こういった定額制の支払いが、若い人の収入に対する比率から考えると、ちょっと高いものを思い切って購入するだけの「基礎体力」を削り取っている。

 考えてみれば、昔のコンテンツの楽しみというのは、ある意味買い切りであった。レコードやCDもよく買っていたし、最新映画は映画館で見るのが本筋で、テレビやレンタルビデオで見るのは古い作品だった。今月何か欲しいものがあるなら、自分で消費を調整することが出来た。ちょっと高いヘッドフォンのひとつでも買ってみようかという余裕を生み出すためには、今月はCDを何枚か我慢すればいいかなと考えれば良かったのだ。

 だが定額制というのは、どれだけ使っても使わなくても、一定の金額が天引きされていく。毎月・毎回の支払いは少額でも、いつの間にか合計で万単位になるのは珍しいことではない。今はテンポラリ的に回す現金が生まれる場所がない、という状況に陥りつつある。

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