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CESで分かった2007年のデジタルトレンド麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/4 ページ)

» 2007年01月26日 15時35分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

――ソニーが27V/11V型の有機ELディスプレイを展示して話題となりましたね。

麻倉氏: 今回のInternational CESの主役はやはりテレビだったと言えるでしょう。米国では2009年にテレビ放送がデジタル化されるため、この時期にお披露目できないと、この商戦には乗り遅れます。それに、コンテンツ・エブリウェアを考えると、有機ELの存在感はとても大きなものになるはずです。

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 ソニーが展示した有機EL(エレクトロルミネッセンス=有機物に電気を通すと自ら発光する)ディスプレイは11Vで厚さはわずか3ミリしかありません。これまで薄型テレビの代名詞と言われてきた液晶では、バックライトを用意しなければならず、ある程度の重量と厚みは避けられません。視野角も狭くなります。有機ELならばそうした問題をすべて解決できるのです。

 有機ELディスプレイ自からが発光するので視野角の制限がありませんし、バックライトが不要なため、超薄型化が可能です。壁掛けテレビに発展できるし、もっと過激に紙のようなペーパーテレビにもなります。低電圧駆動、低消費電力も強みですし、動作速度がきわめて速いので、動画再生に強いのです。

 ソニーブースには1台の27V型と12台の11V型、合計13台の有機ELディスプレイが展示されていましたが、12台の11V型にはほとんど画質にムラが感じられませんでした。つまり、これは寿命の問題にメドを付け、ある程度は量産するだけの技術が既に整っていることを証明しています。それに、なんといっても画質が飛び抜けて良いのです。

 この有機ELには液晶やプラズマにはなかった、「枠を飛び出す」ような力があります。白がピンと立ち、映像から奥行きやリアルなテクスチャを感じさせます。詳説すると、まず映像の安定性があげられます。映像に、ピタッと貼り付いたような、揺るぎない安定感があるのです。これはまさに自己発光ならではのメリットといえるでしょう。画素がきわめて緻密で濃密。ひとつひとつの画素が圧倒的なコントラスト再現をするので、映像にもの凄い奥行き感と立体感があります。スペックではコントラスト比は100万:1以上とありますが、その数値の意味が実感できるコントラスト感覚ですね。

 もうひとつ、白ピークが伸びているのも、素晴らしいことだと思いました。全白輝度が200cd/m2,白ピーク輝度が600cd/m2。ここが液晶とはまったく違うところなのです。液晶ではこの2つは同一の値になり、ピーク再現という概念はありません。有機ELがこれほど白ピークが出るとは、予想外でした。

 白ピークの官能性こそ自己発光デバイスの表現力の本質だと思います。車のボンネットが強烈な太陽光を反射しキラリと光る、オートバイの銀色の鋭い輝き……は、コントラスト比の高さと相まって、感動的な映像を形成していましたね。

 これだけハイクオリティなデバイスと、コンテンツ・エブリウェアが結びつけば、「コンテンツ“感動”・エブリウェア」ともいえる体験を提供してくれるようになります。

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 今回展示されているのは27V型までですが、一層の大型化も期待できるでしょう。27V型を1枚取りできたことが興味深いですね。ソニーは次世代薄型ディスプレイとして、FED(Field Emission Display:電界放出ディスプレイ)と有機ELの開発を進めていましたが、今回の展示は今後、有機ELにリソースを注入していくことの意見表明と言えるでしょう。

 新しいデバイス、画質技術が散見されたのも面白かったですね。プロジェクターの映像素子を作るMicroVisionというベンチャーがあるのですが、そこが構造としてはDLPに近いけれど、非常に小型というプロジェクターを展示していました。この超小型プロジェクターをどう使うかと言えば、携帯に組み込もうとしているのですね。

 携帯(スマートフォン)にプロジェクターを搭載すれば、「携帯をかざすだけで映像を大人数で見る」といったこれまでにない使い方が可能になります。携帯型プロジェクターという発想は昔からありますが、画素集積とレーザー光の技術確信でより現実味を帯びてきましたね。

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