――「音楽をよりよく聴きたい」というデマンドが顕在化しているのは、団塊世代の退職という背景のある日本だけの現象なのでしょうか? それに近年の技術革新はハイエンドオーディオの世界へどのような影響を与えるのでしょう。
麻倉氏: ハイエンドオーディオの復権は日本だけで見られる動きではありません。1月に行われたInternational CESでも、主催者のCEA(Consumer Electronic Association:全米家電協会)が「HD Audio」をテーマに、ハイエンドオーディオを大々的に紹介する会見を行いました。
CEAはHD Audioを“CD以上の音質”と定義づけており、イベントではSACDやDVD-Audio機器のほか、高音質な音楽配信サービスも紹介されていました。そこでMusic Giantsというアメリカの音楽配信サービスは、96kHz/24ビットのロスレス配信デモを行っていました。同じ曲で128kbpsのAACと88.2kHz/24ビットのロスレスを聞き比べると、圧倒的な違いがありました。
Rolling Stonesの「悪魔を哀れむ歌」を試聴しましたが、AACはボヤっとしたサウンドで、分解能が低く、細部の表現がされていませんでした。ロスレスならばMick Jaggerのしゃがれた声すらもきちんと表現できていました。
私はこれまで何回もInternational CESの取材をしてきましたが、CEAがオーディオに関する会見を開いた記憶はありません。これは「良い音楽を聴きたい」というデマンドが高まっているのは世界的な傾向だと感じましたね。
――技術革新といえば、Blu-ray DiscとHD DVDという大容量の次世代メディアが本格的に市場へ姿を現し始めました。
麻倉氏: Blu-ray DiscとHD DVDという次世代フォーマットは映像メディアとして語られることが多いですが、実は圧倒的な音質の向上も見込めるのです。
DVDはまず映像ありきで、余った容量に音を入れるような作りになっています。容量の関係もあり、マルチチャンネル音声を収録しようとすれば、なんらかの圧縮が必要になってしまいます。ですが、Blu-ray Discならば現在でも最大50Gバイトの容量がありますので、30Gバイトを映像、20Gバイトを音声と割り振ることもできます。20Gバイトあればマルチチャンネルの音声を相当高いパラメーターでリニアPCM(非圧縮)収録することも可能になります。
Blu-ray Discの映像ソフトが本格的に登場し始めたのは昨年の冬ですが、ソニー・ピクチャーズやディズニーはリニアPCMのマルチチャンネル収録に積極的に取り組んでいます。そして、そのリニアPCMマルチチャンネルからは驚くほどよい音が出ます。
DVD-AudioやSACDでも5.1ch再生はサポートされていましたが、ロスレスとはいえ音は圧縮されていました。Blu-ray Discは映像の美しさがばかりがアピールされていますが、完全非圧縮のリニアPCMのマルチチャンネル再生を可能にした史上初のメディアとしても注目されるべきだと思いますね。
とあるイベントでBlu-ray Discの「プロデューサーズ」(ソニー・ピクチャーズ)をリニアPCMとDolbyDigitalの双方で聞き比べましたが、ビックリするような違いがありました。リニアPCMのサウンドはとても開放的で音離れもよかったですし、音がその場でジェネレートされているような感動を味わえました。
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