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飽和するコンパクトデジカメ、脱却の糸口を探す小寺信良(3/3 ページ)

» 2007年05月28日 00時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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カウンターカルチャーが主流に化けるとき

 今のコンパクトデジカメは、撮影を極限までオート機能でカバーする。オートフォーカスや自動露出も、顔を検知してこなすまでになった。カンタンさを訴求するために、ボタン類も少なくなってきている。

 だがプログラムAEやシーンモード、マニュアル撮影機能がなくなったわけではない。完全自動化が完了した上で、多機能化に向かいつつある。だがそれらの機能を使いこなすときには、少ないボタンを使ってメニュー操作による選択と設定変更を行なう必要がある。

 一見簡単そうな外観でありながらGUI内に機能を織り込むやり方は、アフォーダンスの偽装である。そして同時に写真に詳しくない人は、まず踏み入れることはないエリアでもある。初心者がターゲットであるはずなのに、なぜこのような機能が必要なのか。

 それは評価者や批判者が、写真上級者だからである。彼らを満足させるために、メインターゲットが使わない機能を実装している。「きみまろズーム」を喜んで買うようなコマ劇に氷川きよし特別講演を見に行くおばちゃんが、マニュアルで撮るか?

 GR DIGITALの評価が高いのは、簡便であるためにコンパクトデジカメが捨てた部分である、マニュアル時に1ボタン1機能を徹底し、上級者の嗜好に合わせたことにある。つまり「写真は撮ってる時が一番面白い」という人のニーズを、満たしたからだと言える。

 当時珍しかった広角28ミリ、しかもズームなしの単焦点、7枚虹彩絞り、手ブレ補正なし、そしてコンパクトデジカメでありながら実売8万円という強気の価格は、それまでどのメーカーも全部をいっぺんにはやっていなかった。買う方は最初からその特徴を吟味した上で買うわけだから、必然的に満足度は高くなる。

 またワイコンや外付けビューファインダなどを使って、「撮影する手間」を改めて再現して見せた。完全自動化が完了した今、市場にないものは何かと考えたら、完成に至るまでの手間なのである。もちろんその手間に応じた品質が付いてこなければならない。

 もともとリコーは、高画質で売ったメーカーではなかった。同社が得意とするのは、技術革新による自動化技術と、大胆な設計・製造プロセスを導入した価格破壊であったのだ。光学系で評価されたGRシリーズは、当時行き詰まりを見せていたコンパクトフィルムカメラに対するアンチテーゼであった。

 そのためGR DIGITALのレンズの開発には、1年を費やした。開発スパンが3カ月と言われるコンパクトデジカメの世界で、完全に「狙った」製品だったのだ。

 市場がエスカレートする方向の先を行くのは、技術的な予測が可能であり、マーケティング的にも安全である。機能アップで値段据え置きならば、少なくともさっぱり売れないということはない。

 しかしトレンドというのは、必ず極端な方向に振ったのち、揺り戻しが起こるものだ。逆をいつやるか、その判断は難しい。だが今更ながらGR DIGITALの評価が高まった背景には、そろそろ逆への振れ時だということを表わしている。

 一眼レフで稼げるメーカーは、それでいいだろう。だがそれ以外のメーカーは、そろそろ逆の手を打っておかないと、大資本を相手にとてつもない消耗戦に巻き込まれるか、ブームそのものを収束させてしまうかもしれない。

取材協力:「日本カメラ博物館」

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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