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「ワンセグ」が変えていくテレビの存在意義小寺信良(2/3 ページ)

» 2007年10月01日 08時35分 公開
[小寺信良,ITmedia]

非同期視聴と同期視聴

photo 「gigabeat V41」

 その一方で、ワンセグをちゃんと見ることにこだわった製品もある。10月19日発売の、東芝「gigabeat V41」だ。電車や室内など受信状態の悪いときに映像がとぎれないよう補完する技術、「トギレナイザー」を搭載した。そもそもgigabeatはHDD内蔵音楽プレーヤーのブランドとしてスタートしたはずだったが、ここまでくるともはや携帯テレビの領域である。価格はオープンプライスだが、直販では2万9800円と、結構安い。

 なんかネーミングのセンスが昭和時代を彷彿とさせるが、本当にテレビで楽しんでいる人というのは、昭和時代からの生活習慣をそのまま踏襲していると言える。筆者にはITとは関係ない友人もいるのだが、そこの家族とスキーに行ったりすると、夜は家族全員でテレビの前に座り、「脳内エステ IQサプリ」のクイズにみんなして参加する「清く正しい家庭の姿」を見たりして、うちの家族のほうがドン引きだったりする。

 ただそのときに感じたのは、だらだらと視聴するというわけではなく、家族でゲームに参加する緊張感のようなものだ。テレビ自体に家族の結束を求めることはできないが、そこまでテレビに対して真剣になれるというのは、ひとつの幸せのカタチなのかもしれない。

 そしてそういう生活習慣の人は、案外時間の切れ目がはっきりしている。この番組が終わったら風呂に入るとか、子供たちは宿題に取りかかるとか、時間のサイクルがテレビによって固定されるからである。

 一方でネットのような時間感覚の希薄なメディアに対して多くの時間を割いている家庭、まあこれはうちのことだが、どうも生活の中での時間の切れ目というのが少ないように思う。したがって毎日の生活スケジュールが常にフレキシブルであり、毎日こなさなければならないタスク、例えば風呂に入るとか洗濯するといったタスクが、夜に向かって押していく。だから必然的に、夜が遅くなる傾向があるのではないかと思われる。

 そう考えていくと、ITがもたらした変革のひとつは、「非同期」であることかもしれない。つまりリアルタイムで処理しなくてもいいという、すべてにおいてのタイムシフトである。例えば電話は、必ず相手をリアルタイムで捕まえて用件を伝える手段であるわけだが、コミュニケーションツールとしてメールが一般化するに従って、用件を処理するタイミングも、非同期になった。

 もちろんテレビの世界も、すでにアナログ時代からレコーダーの発達により、同様のことが起こっているわけだ。さらにそれが持ち出せるようになってから、よりタイムシフトの有用性が発揮されるようになってきたと言える。

 そんな中でありながら、また世の中の人がワンセグというカタチでリアルタイム視聴、すなわち「同期」の世界に戻りつつあるというのは、興味深い現象である。いやそれは非同期から同期へ戻ったわけではなく、ずーっと同期型であった人のためのテクノロジーが出てきただけという、セグメントの問題なのかもしれないのだが。

日本らしさが求められるワンセグ

 ワンセグというのは日本独自のフォーマットなので、視聴できるデバイスも、日本製のものがメインとなる。いくらiPod Touchが人気でも、ワンセグを積むということはまずないだろう。特にAppleは、以前からテレビを電波で受信して視聴するというソリューションに関しては、あまり積極的ではなかった。

 もっともアメリカの場合、テレビ視聴の65%がケーブルテレビ経由で、直接受信は14%ぐらいしかないことも関係しているのかもしれない。つまりケーブルテレビがメインということは、元々各社専用STBがなければ受信できないわけだから、Macでテレビを受信する環境にないということだろう。

 だがそれが故にアメリカでは、番組の販売が早めに軌道に乗ったのかもしれない。もともと放送受信が無料という概念が希薄なことが、お金を払って毎日のテレビ番組を買うというスタイルを生み出しやすかった。

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