――一連の経緯を伺った上での素朴な疑問なんですが、椎名さんは「権利者はコピーワンスのルール作りに関与してない」とおっしゃいましたが、じゃあそれって正確には誰が決めたんですかね? 外野から見るとそこが密室になっててとても気持ち悪い印象受けるんですが。
椎名氏: そのへんは本当に微妙で、この検討委員会でコピーワンスに関する技術的な質問をJEITAにすると、放送局の人が答えたりするような実態があるんですよ。それっておかしいでしょ?となると恐らく放送局の技術部門を統括している民放連とかNHKの人と、JEITAの著作権部門が一緒に作ったということだと思うんですけど……。
小寺氏: それに関しては僕、以前コラムを書くときに調べたんですよ。そもそもコピーワンスの一番原点ってなんだったかというと、まず「放送にスクランブルをかける」という話だったんです。で、スクランブルの導入を決めたところはライツマネージメントアンドプロテクション、RMP協議会という組織があるんですね。そこはNHKと民放各社で構成される放送の業界団体で、そこがまずB-CASを導入したんです。「放送にスクランブルをかけてB-CASカードで解除します」っていう方法を最初に実施したのがコピーワンスの「原点」なんです。
椎名氏: BSデジタル放送とかにかけてあるやつですよね?
小寺: そうです。あれ、BSデジタルだけじゃなくて、地上波も一緒くたにかけられるんです。で、それを導入するときに、コピーワンスのフラグも一緒に入れてあるわけですよ。そこで問題になってくるのがコピーワンスの運用規定なんですね。この運用規定は電波産業会、つまりARIBが決めているんですけど、ARIBって要するに機器メーカーと放送・通信業界から成り立ってるんですよ。ただ、コピーワンス問題ではおかしな点がひとつあって、もともとARIBというのは「標準規格」を決めるための組織なんですね。
椎名氏: 標準規格……?
小寺氏: そう。標準規格。実はコピーワンスというのはそもそも標準規格がない。つまり、規格として策定されたじゃないのに「技術資料」だけがあるんです。これ、順序としては非常におかしいことで、本来はまず規格を制定した上で、それに対して運用規定があるべきなんです。標準規格をきちんと定めずに技術資料だけ作ってそのまま運用している。
だから、そもそもコピーワンスの導入には結果的にJEITA……というか、家電業界が関係しているんですが、JEITAだけで決めたわけではないんですよ。
椎名氏: お話を伺うと、JEITAが決めたようにも思えるんですが……。
小寺氏: JEITAとARIBはイコールではないんです。ただ、JEITAを構成する電気機器メーカーも、ARIBに入っているということですね。
――要するにJEITAもARIBの「一部」として、規格制定にコミットさせられたということですか?
小寺氏: それに近いですね。まず放送業界のトップたちで構成されるRMP協議会で大きな流れを決めて、それをARIBに持って行き、運用規定が決まってしまったと。
――放送を大きな枠組みで捉えると、音楽ってあくまで放送番組の「BGM」を構成する一要件でしかないわけじゃないですか。で、さらにいえば実演家というのは、CD音源をかけることが多い放送の枠組みでとらえたら音楽の中でもさらに「傍流」になりますよね。だから、椎名さんがコピーワンス導入で「全然話聞いてねーよ」ってのはある意味当然のことだったと。
小寺氏: いや、そんなレベルの話じゃないですよ。消費者や、学識経験者とかそういう人にも意見を聞かず、完全に放送業界と家電業界だけで物事が決まってしまった。そもそも国民全員に関わるような大問題を、一部の人間の思惑で決めてしまったことにこの問題の本質があるんです。
――ありえないですね。だって、放送業界って公共性が高いという前提があるから、「放送法」という非常に強力な法律で自分たちの権益守ってもらってるわけでしょ。ある意味これだけ公共性の高い問題を密室で決めちゃったんですね。そりゃすげーや(笑)
小寺氏: これ、後で調べたから分かったことで、当時は何でそうなったのかって報道発表はなかったんです。あくまで「こう決めたのでよろしくね」みたいな発表が民放連とNHKからあっただけ。だから当時は誰も疑問に思わなかったんですよ。で、その後「地上波でもB-CASカードを入れなきゃならない」みたいなことが決まったときに初めて問題が表面化したという。
椎名氏: 実演家がトラウマとして持っているのは、常にいろいろな問題でいろいろなところから「権利者が主張したからコピーワンスが導入された」っていうようなことを言われるってことなんです。これに限らず、例えばインターネットで放送番組の流通が進まない原因は「実演家が許諾権を濫用して流れないようにしているからだ」とかね。
今回の件もそれとまったく同じパターンで「権利者のご主張が強くて……」みたいなことを言われた。そんなこと言われても我々は知らないし、そのときの委員会(デジコン委員会の前の村井委員会)で同じ場所にいたJASRACの菅原瑞夫さんも「僕もその話知らないし、そもそも議論に呼ばれてないよ?」ということを言ったんですよ。それで、消費者側の人たちも「そうだったの?私たちも参加してないよ」ということを言い出して、その結果、権利者や消費者団体も含めた形で、改めてこの問題を仕切り直してデジコン委員会で議論することになったわけです。
(次回「対談:小寺信良×椎名和夫(2):「四方一両損」を目指した議論は何故、ねじれたのか」へ続く)
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