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「四方一両損」を目指した議論は何故、ねじれたのか対談:小寺信良×椎名和夫(2)(2/4 ページ)

» 2007年11月07日 09時05分 公開
[津田大介,ITmedia]

ダビング10でも「状況は変わらない」

――あくまでお目こぼしでコピーさせてるだけで、そもそもお前らに編集する自由はないんだと(笑)。なるほど、主張の善し悪しはともかく、彼らからすれば、筋の通った話ですね。うーん、じゃあ今回のコピーナインに決まった背景の確認が一通り終わったところで、端的に核心の話をしたいんですが。小寺さんと椎名さんは、今暫定的な結論として出されているCOGプラス9、いわゆるコピーナインをどう評価されていますか?

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小寺氏: 回数という面で考えれば想定したよりも多かったという部分は正直あります。でもね、最初に消費者側が「制限を感じさせない枚数」って言っちゃったところに僕は大きなミスリードがあると思うんですよ。問題は枚数じゃなくて、世代をどうするかということだから。

 つまり、少なくとも「コピーのコピー」ぐらいまで認めないことには、ポータブルデバイスへ持って行くのも大変になるし、今アナログで行われている録画文化をデジタルに置き換えられなくて全部死滅するということが多分お分かりになってない。時間も限られている委員会の席上で、そういう深い部分までイメージできていたかというとそれは難しいだろうなとは思いますね。委員会に技術に詳しい方がいても、そういう利用のされ方や録画文化とは違うレイヤーの話ですし。

 だから、単に回数という意味では村井先生の英断というものはあったと思いますよ。ただそれとは別に、録画したコンテンツを長らく保存したいというニーズというのもあるわけです。例え録画したものをもう一度見る機会がなくても、残しておくことに意義があると考える層は確実にあって、僕はそういうニーズがメディア産業を牽引する役割を果たしていると思うんです。

 そもそも半永久的に保存したコンテンツを受け継いでいけなければ、メディアシフトそのものが起こらないという話になりますよね。そういうさまざまな周辺状況を鑑みると、コピーナインに落ち着かせてしまうのは長い目で見たときに、日本の産業界にとって非常に大きなマイナスになってしまう可能性があると思います。

――要するに、今のコピーナインは主に世代制限という観点から厳しすぎるんじゃないか、と。

小寺氏: 厳しすぎるでしょうね。世代制限が生きている以上、本質的にコピーワンスの状況とあまり変わっていかないような気がします。

――椎名さんはどうですか?

椎名氏: あの……ヘビーユーザーはともかく、普通一般のユーザーから見れば、10回という幅は、何とか不自由なくコピーができる回数、つまり事実上のコピーフリーと同じなんじゃないかと思います。でもね、極論するとさっきも言ったように、機器の拡張性を上げていくみたいなところで解決するなり、実際に運用していく中で適宜ルールを変えていけばいいと思ってるんですよ。

――あくまで椎名和夫個人としての考えは割とそのあたり、柔軟にあるということですね。

椎名氏: 何でそう思うかというと、「このルールが暫定である」ということを村井先生もおっしゃってるんですね。今後予想できない録画機器なんかが出てきた時に、このルールは未来永劫有効なものじゃないという話になっています。直近の話でいえば私的録音録画補償金制度がきちんと機能しないんだとすれば、この合意はおじゃんですしね。

 権利者側からすると、今まではあまりにもEPNありきの話ばかりで、放送事業者もコピーワンスを続けて、ムーブの失敗はミラーリングデータを作っておいてそこからコピーすれば問題なくなるだろうとか、あまりパッとしない案を出したりしてて、議論が錯綜していた状況を苦々しく思っていた部分があるわけです。でも、そんな中で少なくともEPNじゃなくなったっていうことで、胸をなで下ろしている人は多いんですよ。

 だから小寺さんが指摘する世代制限が厳しすぎるんじゃないかという部分について言えば、もちろん使い方によっては確かにそういう部分はあるだろうと思うんですが、一方でね。放送番組はDVD化されるという商売もあるわけです。そういう二次利用が行われる度に僕らみたいな実演家も収入を得るし、そもそも実演家は二次利用、三次利用の対価である種、メシを食っているような部分もあるという前提で申し上げると、EPNみたいにほぼ無制限にコピーできちゃうことによって、DVDは売れなくなっちゃうわけですよ。放送番組のパッケージみたいなものは本当にそう。

デジタル時代の“コピー”は両刃の剣

小寺氏: そこのところの理解が僕と椎名さんで一番ずれているところでしょうね。根本的な話をすると、ユーザーや消費者って選択肢を囲い込んだらそっちの方へ行くかっていうと、必ずしもそうはならないんです。日本人特有の現象だと思うんですけど、彼らは囲まれた途端、それ(購入)を選ぶことをやめる人が多い。

椎名氏: うん、そこのところはかねてから伺っているところで、僕自身もその話はとてもよく理解できるんです。ですが、権利者側の意識としては、定量的な観点でこの問題を見たときに、「無制限にコピーされる」というところは受け入れがたいんですよ。そこのところはぜひユーザーや消費者の方々にも理解してもらいたいんです。

小寺氏: 「無制限のコピー」とおっしゃいますけど、EPNであれば、少なくともネットには流出しないわけじゃないですか。基本的に今、コンテンツのコピーで問題になっているのって、ネット上でアノニマスな形で無制限に著作物がコピーされて流通されていることですよね。で、僕は椎名さんのおっしゃるような「物理メディア同士のコピーが無制限では困る」という考え方が今の時代に合わないと思うんです。

 物理メディアの売買って、ネットで誰が流したのか分からないような流通が大量に行われることと比べれば、誰が売っているかというのは明確なわけですし、そもそもコピーできるできないという話で言えば、VHSの時代だって無制限にコピーできたわけですよ。

 重要なのは、そのときに地上波放送からコピーした物理メディアの海賊版ビジネスが成長したかどうかということ。実際にはそんな時期はなかったですよね。あったとしても非常に零細だったし、権利者が訴訟や摘発を行うことで潰されていくという、法的に正しい過程があったわけですよね。だから僕はEPNでなぜ権利者が困るのかというところの根拠が薄いように思えちゃうんですが。

椎名氏: おっしゃることはよく分かります。ですが、そもそもコピーワンスのきっかけになったのって、さっき(前回)も触れましたけどネットオークションの海賊版なんですよ。オークションでSMAPかなんかの番組が出品されたことがきっかけになって、「スクランブルかけろ!」という話になった。それはやはりパッケージ商品として後から流通するということに権利者の関心が行ってたということがひとつありますし、デジタルにおける複製は「実時間を要しない」という大きなポイントがあって、その手軽さと大量複製を可能にする技術に対して権利者は脅威を感じていたと思うんですよ。

 VHSみたいなテープメディアの時代は、せいぜいコピーを高速化する技術は倍速ダビングくらいしかなかった。そういうのを使ったとしても、一定の労力と時間をかけないと複製ができないわけです。それと、ドラッグ&ドロップで簡単にコピーできちゃうというのはやはり同じ話じゃないんじゃないでしょうか。

小寺氏: うーん。でも、デジタルのメリットとか利便性ってまさにそこに凝縮されているワケじゃないですか。手軽で実時間を要せずにコピーできるデジタル技術が隆盛したことで、権利者も消費者もメーカーも、等しく何らかのメリットを享受しているんじゃないですか?

椎名氏: うん、確かにそれは享受しているけれど、そこが両刃の剣っていう部分もあるでしょ。

――デジタル複製技術が発達したからメディアのコストが安くなって、コンテンツの普及に拍車がかかるという事象は今までいろいろなコンテンツで見られますよね。映画なんかは顕著で、昔はセルの映画パッケージというのは1万5000円くらいで売っていたわけですけど、DVD時代になって、2000〜3000円くらいで買えるようになった。そしたら「この価格だったらレンタルするより買っちゃえ!」みたいな感じで買う人も増えたし、レンタル市場とも共存することができた。そのあたりの話は僕も小寺さんのおっしゃる通りだと思いますね。

小寺氏: デジタル技術の制限が一方的に消費者のみに課せられるというのは、技術の進歩として正しくないと思うんですよね。メリットだけじゃなくデメリットについても、ある種三つどもえの「痛み分け」的な状況であるべきなんじゃないかな。

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