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» 2007年11月08日 08時30分 公開

ダビング10の向こうに光は見えるのか対談:小寺信良×椎名和夫(最終回)(5/6 ページ)

[津田大介,ITmedia]

ダビング10の向こうに光は見えるのか

――そのあたりを掘っていくとおもしろい話がいろいろ出てきそうですね。ぜひITmediaさんに今後このあたりを取材してもらうとして(笑)、そろそろまとめに入りたいんですが、とりあえず今回暫定合意が取れて、実際にコピーナインに対応した機種も発売されてくるわけですが、実際の運用や、ユーザーがどれだけこれに満足するか、想定しない問題が起きる可能性なんかも含めて、今後の展望をお聞かせいただければ。

小寺氏: 短期的にレコーダーの売れ行きがどうなるかという部分から考えれば、コピーワンスが緩和されたという字面だけで深く考えずに売上は伸びると思いますよ。それで十分な人ももちろんいるんだけど、分かっている人たちからは「これじゃダメだ」という議論も出てくると思う。

 ある程度そのあたりが固まってきたときにもうワンフェイズ、地デジのコピー問題をどうするのかという議論が盛り上がるような気がしています。

椎名氏: こまごま申し上げてきたように、暫定的な結論である以上、コピーナインにはいろいろな不確定要素がつきまとっているのは事実です。そのことは総合的に長期的な視点で見て行かなきゃいけないと思うんだけど、同時に小寺さんのご指摘にあった「実際にどんな機器が出てきて、どういう拡張性を持って動画を楽しむシステムを構築していくのか」という部分は、メーカー側が製品構成を工夫することで、ある程度解消されるんじゃないかとも思ってるんですよ。だから、メーカー側に対して言いたいのは、そのあたりの努力を放棄せず、消費者に不便がないような努力をしてもらいたいなということですね。

 例えば、現状のムーブって移動したら元の機器のデータが消えますけど、元機器にデータを戻すとコピー回数が復活するような仕組みは実現できないのか、とかね。

――ああ、音楽配信サービスのMoraで使われているポータブル機器への「チェックイン/チェックアウト」という概念ですね。

椎名氏: そう。今は技術的に無理らしいんですけど、そういうものを実装することも含めて、コピーナインという条件下で録画した番組を消費者が不便なく使いこなせるような製品が考えられていったらいいんじゃないかと思ってるんです。

 そこまでやってそれでも不便だったら、「やっぱり不便じゃないか」という話が持ち上がるわけじゃないですか。そうなったら権利処理とのせめぎ合いになるんでしょうけど、またもう一度話し合って新しいルール決めましょうよっていう。

 いや、ネットなんか見ると、僕が「コピーワンスの元凶」ぐらいの勢いで書かれていることもあるんだけど、いや、俺それ全然知らないから、っていうことだけは、ここではっきりさせておきたいんです。もう勘弁してよっていう。

一同: (笑)

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椎名氏: 改めるべきところは改めていく議論をすればいいと思うし、僕自身の興味とかミッションというのは、コピーワンスの改善なんて小さな問題じゃないんです。むしろ、私的複製の自由度とクリエーションの保護のバランスを、どう社会制度の枠組みの中で確保していくかっていうところが一番大事なところであって、そこの議論をこれからきちんとしていきたいんです。

 それは「タダ」がいいには決まってるけど、それじゃコンテンツもクリエーターも枯渇する。そこを解決するのに、技術的な制限がどうこうとか、個別課金で解決しようとか、そういうチマチマした方策が本当にいいわけ? っていうような議論を津田さんや小寺さんとしていきたいなと(笑)。でも、そうなる前に議論が錯綜してあっちこっちに行っちゃったという部分は正直あるんですよね。

――テレビというコンテンツを考えたときに、2011年問題って本当に大きいですよね。消費者もそのあたりがはっきりしないから、買い控えしている部分はあるし、でも大画面できれいな映像は観たいからレコーダーじゃなくて、大型テレビだけ売れていくみたいな。

 僕が懸念してるのは、なんか面倒くさいからテレビ観るのやめようかなって人が増えて、一旦衰退する方向に向かっちゃったらそこから回復するのって中々難しいだろうな、ってことなんです。そのときに「ああ、やっぱりコピーナインじゃダメだった! じゃあEPNにするしかない!」とか言ってルール変更しても多分遅いと思うんですよね。

小寺氏: コピーナインになったときに、現状市場に出ているレコーダーでファームウェアの改修で何とかなるものはアップデートやデジタル放送のデータ送信で対応すると思うんですけど、多分いろいろな機器でアップデートの失敗が起きたり、ほとんど対応できる機種がない、みたいな状況が出てくると思うんですよね。そうなったときに消費者だけじゃなくて、メーカーも不幸になるわけで。

 そうなると、消費者的には「ぶっ壊れたんだけどどうなってんの?」みたいな話になる。重要なのは消費者からすれば、レコーダーがぶっ壊れた期間は録画ができないってこと。みんな毎週毎週楽しみにしている番組を撮れなくなったりするという損失があるわけじゃないですか。でも、それは誰も補償してくれないわけでね。メーカーはそういうリスクを避けようとすると「アップデートはできません。買い直してください」っていうしかない。

――難しいですね。権利を守ることと、消費者のコンテンツに対するニーズや利便性を守るってことは表裏一体だし、不可分のものですよね。だからこそそのバランスをどこに置くかって話なんでしょうけど……。今回のコピーナインに関していえば、僕個人の考えで言えば、7〜8割くらいは認めているというか、「落としどころ」としては決して悪くないものだと思ってるんですが、それでもなんか引っかかる部分があるんですよね。

 それこそ「アメリカじゃEPNで問題起きてないのに何で日本は?」みたいなシンプルなものも含めて。僕はやっぱりこういう状況が続くことで、結果的にテレビってみんな見なくなっていっちゃうんじゃないかな。コンテンツって本当に盛り上がるのかな、って素朴に感じちゃうんですけど、それはユーザー側の勝手な視点なのかなぁ。

椎名氏: 規制を強化するという選択肢と、緩和するという2つの選択肢があったときに、津田さんはある種文化論的な視点から「DRMががんじがらめになるんだったら、補償金制度の方がマシだ」みたいな言い方をするじゃないですか。でも、世の中規制を強くしようとするか、弱くしようとするかっていうのは、あくまで純粋に経済的な原則で決まっていくと思うんですよ。そこに文化論の入る余地って実はほとんどないんですよね。

 権利者という立場を離れて本音を言えば、僕はコピーできないぎちぎちのDRMに対しては否定的な感情があるんです。僕はレコーディングスタジオを経営しているから、録音するという行為がものすごく身近なものなんですね。いち音楽ファンとして、友人にオムニバステープ作ってあげて、インスパイアし合ったりしてきた背景とか、コンテンツって仲間同士で共有されることで初めて価値を持つと思っている部分はありますしね。

 でも、そういう議論って、多分ああいう委員会の中では理解されないし。でも、その部分を少しでも形にしたいと思って、CPRAレベルでは、c2c/Creators to Consumers(http://www.cpra-c2c.com/)なんてイベントもやってるわけです。津田さんにもお世話になってますけど。

小寺氏: 日本人の活動原理の話でいえば、ロジックとして辻褄が合っているかどうかということを非常に重視する国民性なんだと思うんですよ。「本来の目的じゃないんだけど、大枠として機能しているからまぁいいじゃん」みたいなあいまいな部分が許されない。

 結局、補償金もそういうロジカルじゃない、あいまいなところがたくさんあるから消費者の反発が強いんですよ。でも椎名さんが補償金を求めている姿って、まさにそういうところにあるわけで、そのまま「補償金制度は絶対維持!」みたいに主張すると、どうやっても叩かれるという(笑)。

 だから、現行の補償金制度じゃなくて名前を変えるとか、意味づけを変えるとか、そういう風にしないと今の枠組みの補償金論では国民のコンセンサスは得られないような気がしますね。

――でも、少なくとも文化政策として歌舞伎とか能とか狂言には、税金が投入されているわけじゃないですか。あとは美術や芸術のクリエイターに文化庁が留学資金出したりもしているわけで、補償金的な制度も、そういう枠組みにしちゃった方が分かりやすいのかなという気はしますね。なんで伝統芸能ばっかり保護されて、グローバルに見ても産業的に影響力が大きくなってきているポップカルチャーだけ全然保護しないの? って話はありますよね。

椎名氏: いやあ、それは本当にそうなんだけど。それは僕ひとりが答えられるような問題じゃないよ(笑)。

 でもねぇ。そういう意味では我々みたいにあまり保護されない上に、あらゆる方面からプレッシャーが来る中で、今回権利者と消費者の間で中間点を見つけられたっていう意味では、自分を褒めてあげたい部分があるんですよ(笑)。小さな一歩かもしれないけれど。自分的に一歩目は踏み出せたなと。ダサいって言われるかもしれないけどね。

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