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スピーカーの“群遅延”を解消する「フルバンド・フェイズコントロール」とは?(3/5 ページ)

» 2008年02月06日 16時43分 公開
[本田雅一,ITmedia]

スピーカー設計のノウハウを持つからこそ

 さて、長い前振りになってしまったが、改めてインタビュー相手を紹介しておこう。

photo フルバンド・フェイズコントロールは、「スピーカーの位相特性が理想的に揃った状態を作る」と服部氏

 パイオニア、ホームエンターテイメントビジネスグループAV技術統括部AVコンポ設計部第2課の服部章氏は、パイオニアの音場補正技術Advanced MCACCを開発するチームのメンバーで、今回のフルバンド・フェイズコントロールを実装した人物。音楽が好きだったことからAV機器の開発を志望してパイオニアに入社。AVアンプの開発に半年間携わって以降、ずっとMCACCのソフトウェア開発を行ってきた。

 そしてもう1人、フルバンド・フェイズコントロール開発の中心人物と言えるのが、AV技術統括部でもAVコンポ設計ではなく、スピーカー技術部設計2課に籍を置く副主事の細井慎太郎氏である。つまり、フルバンド・フェイズコントロールの開発はAVアンプではなく、スピーカーを設計している部門からの発案だったのである。

 細井氏はスピーカーの技術者として開発・設計を一貫して行ってきた。同社のハイエンドスピーカー「EXシリーズ」も細井氏の担当で、「S-1EX」に使われたマグネシウム振動板とベリリウム振動板を用いた同軸ユニットの設計、それに昨年発売された「S-3EX」の設計も担当している。

photo 「S-1EX」や「S-3EX」の開発に携わってきた細井氏

 しかし、「その裏家業(?)として、マルチチャンネルオーディオの研究も行っていて、その中で生まれてきたのがフェイズコントロールという発想なんです」と話す細井氏は、元々はソフトウェアエンジニア。小さい頃からパソコン好きで、就職もインターネットプロバイダに入ろうと思っていたほど。つまりソフトウェアの力で何かを解決しようという発想に慣れていたのである。

 さて、その細井氏はマルチチャンネルオーディオの研究を進める中で、位相がサラウンド音場を整える上で重要なことに気付いていた。理由は前述したのと同じである。全く同じ位相特性のスピーカーだけで揃えれば、音場は整う。

 異なるユニット構成のスピーカーを使用する場合でも、極性さえ合わせておけば、さほど悪くはならない。そこで、パイオニア製スピーカーに搭載しているユニットの全極性を揃えた(実はスピーカーの中には一部ユニットのみ極性を逆、つまりあえて逆位相にして音を整えている製品がある)。これが第一歩。さらに同一シリーズのスピーカーは、トールボーイもブックシェルフも、クロスオーバー周波数(各ユニットを繋ぐ境目の周波数)を同一にしているという。

 次にLFE、つまりサブウーファーチャンネルの位相が目立って合わないことに注目し、サブウーファーにローパスフィルター(高域をカットするフィルタ)を使わないバイパスモードを設け、業界内全体にもサブウーファーのバイパスモード搭載を訴えた。同時にソフト製作の中でローパスフィルタが使われ、位相がズレていることに着目し、プロの製作現場に対してもLFEの位相を合わせるよう呼びかけている。この活動は、フェイズコントロールとしてロゴが設けられ、LFEの位相制御をきちんと行っているハードウェア、ソフトウェアにフェイズコントロールのロゴが付けられている。

 と、ここまでは地道な活動だったが、ここから先、即ちフェイズコントロールを意識していないシステムコンポーネントが混ざったときにも、なんとかできないか。そもそも、異なるスピーカーでも群遅延を抑え込むことができれば……と理想に燃えて編み出したのがフルバンド・フェイズコントロールである。

 しかし、「ソフトウェアで群遅延を補正できても、実際に使われる環境で群遅延特性を計測することは難しいでしょう。無響室ならば正確に計測できますが、通常はさまざまな反射波がありますから、処理が複雑で計測の品質も高くできない。実際、学会レベルではいろいろな技術が発表されていましたが、安定した品質を実現できるものはありませんでした」と、簡単にはことは運ばない。

 「そんなとき、ふと思いついたのが、スピーカー設計のノウハウを活かせるのではないか? ということです」(細井氏)。

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