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家庭における3D映像の可能性を考える(2)〜3D映像の基本本田雅一のTV Style

» 2008年03月07日 21時23分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 前回は“劇場向けとして3D技術が本格的に流行し始めている”という話を書いた。実際、一昨年に公開された「チキン・リトル」や「モンスター・ハウス」などの作品は、3Dシアターの方が一般的な2Dシアターよりも動員数が多く、そうした実際の興行収入増加が3D化の原動力になっているようだ。

 さらにBlu-ray Discにより、今後は市販パッケージのフルHD化が進むとみられているから、劇場側としては単にサイズが大きなスクリーンで映画を楽しめるだけでなく、プラスアルファのエンターテイメントを求めているわけだ。

 さて、では家庭向けテレビの3D技術には、どんな可能性があるのだろうか? それを探る前に、劇場向けの3D技術がどんなものかを知っておきたい。

 3D映像の技術は大きく3つの分野に分けられる。

 1つは、どのようにして撮影するのか。あるいは、どの程度の3D効果を持たせるのが適当なのか? といったノウハウ面だ。3D映像は左右の目に生まれる視差をあらかじめ映像に仕込んでおき、それぞれの目に異なった映像を見せることで立体化する。このため、左右の瞳の距離や消失点の距離といったパラメータの設定など、さまざまな要素で見え具合や目の疲れ方が変化する。

 このため撮影方法や、シーンごとの3D化パラメータの設定などは映画制作側がノウハウとして秘密扱いにしており、コンテンツごとに出来の良さは違う。

photo ビックカメラの店頭で行われたBS11「3D立体革命」のデモ

 もう1つは、3D映像をどのように流通させるか。例えば3Dの実験放送を始めたBS11(4月からは本放送)は、フルHDの高解像度を活用し、画面を左右に分割して送信している(サイド・バイ・サイド方式という)。左右方向の解像度は半分になるが、受信する装置がサイド・バイ・サイドを検出することで、放送フォーマットを変更せずに放送できる利点がある。よく似た方法にラスター(走査線)の奇数と偶数に、それぞれ右目用、左目用を割り当てる方法もある。この場合、縦方向の解像度が減る。

 しかし劇場映画の場合は専用のシステムとすることが可能なので、単純に毎秒24コマの映画を毎秒48コマで収録し、右目と左目の映像を交互に送る方法が採られている。おそらく将来的には、BD規格に毎秒48コマのフォーマットが定義され、3D映像対応の映像パッケージも登場するのではないだろうか。この場合、片側の映像を2D用としておけば、1つのパッケージで2D、3D両用のコンテンツとして流通させることも可能だ。

 そして最後に、3D化されているコンテンツを、どのようにして左右の目に送り込むかという技術が必要だ。劇場向けとして、もっとも多く普及しているのは、元々軍事用シミュレーター技術として3D映像に取り組んできたReal Dの方式だ。早期から取り組んでいたこともあり、実に90%以上の劇場がReal D方式を採用している。

 Real Dの手法は、光の振動が伝搬する際に円を描くように回転する“円偏光”という技術を使ったものだ。右目用映像を右方向に回転する右円偏光、左目用映像を左方向に回転する左円偏光で投写し、それを左右で回転方向が異なる円偏光フィルタを持つメガネを通して見ることで3D映像を得る。

photo ドルビーのシステムで利用するフィルターホイールユニット。DLPプロジェクターにアドオンできるため、コストを抑えることができる

 このほか、音声技術で広く知られるドルビーも、ドイツの3D映像技術を買収してシアター向け3D投写技術「Dolby 3D Digital Cinema」を提供している。こちらは偏光を用いるのではなく、光の波長を多数の帯域に分割し、左右用の映像に割り振る方法を用いる。視聴者は左右それぞれ異なるフィルタ特性を持つメガネをかけて映像を見る。このため、若干色が変化して見え、メガネのフィルタ構造が複雑になるためメガネ代が高いといった弱点があるが、一方でReal D方式よりも明るく、専用スクリーンが不要という利点もある。

 ただ、いずれの方式もプロジェクターでの投写を前提としているため、一般的な薄型テレビには利用できない。リアプロジェクションテレビや、ホームシアター用プロジェクタならば組み込むこともできるが、コストの問題もあって実際には商品化は(技術的にといううよりも、市場規模の面で)難しい。

 家庭で3D技術を楽しむには、やはり薄型テレビに3D機能を組み込むのが一番だ。次回はテレビ向けに提案されている3D化の手法について話を進めることにしたい。

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