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コラム
» 2008年03月17日 08時30分 公開

小寺信良:「児童ポルノ法改正」に潜む危険 (2/3)

[小寺信良,ITmedia]

「所持する」とは何か

 インターネット社会になって難しいのが、この所持するという概念である。例えばある児童ポルノのイメージデータがあったとしよう。これを所持するとは、ごく単純に考えると自宅のPCのHDDに保存したり、DVD-RやCD-Rに保存する、あるいはプリントアウトするといったことに当たるだろう。

 だがこれをネットまで含めて考えると、妙なことが沢山起こる。例えばスパムメールに添付されてそれらの画像が送り付けられてきたらどうか。メールは見る前に消してしまえばいいかもしれない。しかし最近では、メールのバックアップとしてGmailや携帯などに転送をかけている人もいるのではないだろうか。

 ローカルPC内の画像は消したが、転送されたほうはすっかり忘れて、そのままになってしまうかもしれない。Gmailのファイルはローカルにはないが、データの所有権はおそらく本人にあるということになるだろう。つまりネットの世界では、「所持」という概念が、自宅内を超えるわけである。

 ダウンロード違法化問題でも同じ点を指摘したが、PCとインターネットの関係では、ダウンロードと閲覧の区別など付かない。ネットサーフィン中に意図せず児童ポルノ画像に行き当たっただけで、ローカルPCにはキャッシュが生成される。これは所持なのか。

 もうひとつ重要なのは、これはネットに限ったことではないが、これによって多くのえん罪が発生するのではないかという懸念である。先日も大阪市営地下鉄御堂筋線で痴漢でっち上げ事件が起こったが、この法案が通れば、わざわざ電車に乗り合わせる必要もない。つまり誰かを社会的に抹殺したいと思ったら、児童ポルノを郵便やメールで送りつけて、手に取ったり画像を開いた現場を押さえればいいということになる。現に米国や英国では、児童ポルノを使った社会的抹殺ではないかと言われている事件がいくつか発生している。

 さらにウイルスのような形で、「自動えん罪プログラム」を作ることも可能だろう。PCに潜み、定期的に大量の児童ポルノをユーザーの気づかないフォルダに長年にわたり蓄積し、ある程度年数が経ったところで警察に匿名で通報するようなプログラムである。この法改正で、児童ポルノ法は不特定多数の人間を無差別に社会から葬り去る、「究極の情報兵器」となりうるのである。

 携帯フィルタリングもダウンロード違法化もそうだが、もともと悪いのは、情報を出す側である。児童ポルノの提供者は、すでに現行法の七条で違法とされ、刑罰もある。なのに情報の受け手側を違法化するような、潜在的に一般市民全員を犯罪者に落としかねないようなやり方しか考えられない背景には、法改正に関わる者がいかにネットの仕組みを知らず、旧来の社会生活ベースでしかものを考えられないかという事実がある。ネット上の情報発信者が特定できないというのであれば、それを可能にする法改正にまず着手すべきだ。国際協力も、そこから始めるべきだろう。

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