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コラム
» 2008年04月14日 08時30分 公開

小寺信良:臭いものにフタをしても、何一つ解決しない (3/3)

[小寺信良,ITmedia]
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子供の成長を見守る視点の欠如

 フィルタリングによる閲覧制限は、有害情報だけをピンポイントで隠すことはできない。サイト全体・サービス全体を対象としてしまうので、有害情報の近くにある有意義な情報もすべてカットしてしまう。最初から、「そんなサイトはなかったこと」になってしまうのだ。

 有害情報に触れなければ、青少年は健全に育つのだろうか。これは児童ポルノ法改正案の時と同じ論理で、表現を見たことと、実際にそうなることの相関関係は、いまだ証明されていない。仮に18歳未満では健全でも、18歳になってフィルタリングが外されたとたん、有害無害入り混じったネットの世界に放り込まれることになる。これまでなら経験によって築かれた情報リテラシーによって自ら判断できたところが、その耐性がゼロのままでそんな世界に解き放たれることを考えると、親としてはそっちの方がよっぽど危ないと思う。18歳を過ぎたって、親にとっては子供でなくなるわけではないのだ。

 この法案は、根本的に子供を育てるという視点が欠如している。有害情報の有害性は、それを見たことで発生するのではなく、有害であることを知らずに実行してしまうことで発生する。つまり判断材料としての経験が不足しているから、それを実行した場合の社会的影響や善悪の判断ができないわけだ。従って単に有害情報を見せなくするのは全くの逆効果で、「こういう情報がなぜ悪いか」を分からせることが重要なのである。

 先ほども親のスキルの問題があると指摘したが、このような教育は、すべての親には無理だ。今は家庭にネット環境がない子供も、一生ネットなしで過ごすわけではない。従って、情報リテラシーは学校の授業の中に組み込むしか方法がない。

 現在小学校の授業でこれに関連するのは、「生活」と「道徳」であるが、学習指導要領の中には、情報リテラシーに関する項目はない。実際に筆者は娘が小学校時代から情報リテラシーに関わる問題に直面してきたが、小学校では問題が発生したときに限り、県の教育委員会などが臨時に資料を作成して配布する程度だ。しかもその解決策は、「なにかあったら両親や先生に相談しよう」である。相談される側にスキルがないから困っているのに、これでは問題の解決にならない。

 中学校の学習指導要領で始めて「技術・家庭」の授業の中に、「情報化が社会や生活に及ぼす影響を知り,情報モラルの必要性について考えること。」という項目が入ってくる。実際の教科書の中では、かなり後半になって情報の信ぴょう性というテーマが出てくるが、常にウイルスの脅威などと並列で語られるため、きちんとそれらを分けて問題点が理解されているか、疑問に思う。

 高校では、「情報」という授業の中で情報リテラシーについて学ぶ機会がある。だが高校の教科書はどのテーマを重点的に扱うかで情報A、B、Cに分かれており、どれを採用するかは学校ごとに違う。2つの出版社から出されている情報ABCの各教科書を比較して内容を検討してみたが、最も情報リテラシーに言及が多いのはコミュニケーションを主体に扱う「情報C」で、情報A、情報Bの順に扱いが少なくなる。つまり出身校によって、情報リテラシーに差があるということになる。

 法案では「国および地方公共団体は、ネットの適切な適切な利用に関する教育の推進に必要な施策を講ずること」とあるが、具体策は何一つない。この程度で適当にお茶を濁されたのでは、親としてはたまったものではない。

 情報化社会への道を歩み始めてもう何年にもなり、小学生のうちからパソコンやケータイを使う子供も出てきているというのに、まともな情報教育が高校からでは遅すぎる。小学校のうちから、特別授業として実地を含めた情報リテラシー教育を義務付けるぐらいの政策こそが、必要なのだ。その教育が教員には難しいのならば、それこそNTT東西や地元プロバイダに協力義務を課して、年に1回2時限ぐらい使って「ネットに詳しいおじさんの、こんなに危ないパソコン・ケータイ教室」ぐらいをやるべきである。

 ネット自体の浄化に対しては無策のままで、単純に有害情報から遮断するだけでは、何が悪いのかを知らないままに成長してしまうことになる。それでは悪意を持って情報を発信する人間が居ること自体を理解できないので、もうダマされ放題である。さらに、悪いことと分からずに有害情報を発信する、あるいは悪いことと知っててもその影響を理解できずに有害情報を発信する人間を、限りなく量産してしまうだけだ。この法案が示す政策には、子供にも知る権利を認め、時として成長に必要な厳しさを与える親の愛情が欠如している。

 ネットの抜本的な浄化策にしても、教育という手法は効果が高いのだ。子供から親まで、それぞれの年齢に合わせた情報リテラシー教育を、正面から政策として取り組む事こそ、青少年の健全な成長に一番遠いように見えて、本当は一番近い道なのではないのか。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。

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