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取材の方法論を変えたハイビジョンカメラ小寺信良の現象試考(2/3 ページ)

» 2008年04月28日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

HDで記録するメリット

 動画そのままを何かで利用するわけでもなく、単に資料として撮影するだけなのに、常時ハイビジョンで撮影する意味があるのかというのは、筆者も悩んだところだ。昨今のハイビジョンカメラは、次第にSDモードをサポートしなくなってきており、動画はハイビジョン以下の解像度では撮れないものも少なくない。HF10もその1つだ。

 しかしコンベンションの取材では、これに助けられたケースもあった。今多くのハイビジョンビデオカメラには、ハイビジョン動画から静止画を切り出す機能がある。写真は撮っていないが、記事を書いているときに話の流れ上必要だと思うカットが出てくることはよくある。また記事を書く段になってよくよく調べていくと、実は写真を撮っていない別のもののほうが重要だった、というようなこともある。このとき、取材途中の動画に対象物が1フレームでもしっかり写っていれば、写真として切り出すことができる。実は取材リポートの中でも、動画から切り出した静止画をいくつか使用している。

 キヤノン機の特徴として、動画から切り出した静止画を写真モードで撮る際のガンマに合わせてくれる機能が標準搭載されている。これにより静止画モードで撮影した写真と混在して使用しても違和感がないのは、ずいぶん助かった。これを自力で補整しようと思ったら、ただでさえ時間の制約がキツい執筆の大きな負担になるところだろう。

 動画からの写真切り出しは、カメラ本体で動画を再生し、静止画にしたいコマでポーズにして、静止画シャッターボタンを押すだけだ。特別なモードに入ることなく簡単に使えるところがいい。

 今回は写真として別に撮る際もHF10を使ってみたが、意外にフラッシュ撮影がうまい。今時のコンパクトデジカメでもフラッシュ撮影に失敗することはないのだが、光量が強すぎるのか、どうしても立体感のないベタッとした写真になってしまうものが多いように思う。フラッシュ別体の一眼レフならバウンスさせるところだが、コンパクト機ではそうもいかない。

 NABのような展示会、特にカメラコーナーは照明を落としていることが多いのだが、これまでフラッシュあり・なしで撮影をした場合、フラッシュありでは何か雰囲気を壊してしまうので、多少ブレがあってもフラッシュなしのほうを採用することも多かった。だがHF10は、前面フラッシュの割にはあまりベタッとならず、周囲の照明の感じもあまり殺さない立体感のある写真になる。解像度は最高で4メガにしかならないが、フラッシュ併用の雰囲気撮りとしては、下手なコンパクトデジカメより上かもしれない。

photo HF10でフラッシュ撮影。白けた感じにならず、自然だ

ハードウェア的な課題も

 その一方で課題もいくつか見つかった。ハイビジョン撮影した動画を再生しての長時間のインタビュー起こしなどは、現場ではどうにもならない。低解像度の軽い動画であればノートPCに取り込んで再生することも可能だが、AVCHDではスムーズな再生はとても望めない。

 もちろんカメラ本体での再生は可能なのだが、プチプチした小さなボタンを押しながらの細かい巻き戻しや再生は、現実的ではない。リモコンがあればだいぶ解消されたのかもしれないが、あいにくそこまでは想定していなかったので、リモコンを持っていってなかった。そのあたりをどうするかが、今後ワーフロー上の課題である。

 HF10のハードウェア上の難点もいくつか見つかった。まず画角としてワイド端で39.3ミリは取材用としてはちょっと狭い。0.7倍のワイコンを付けるとだいたい28ミリだが、そうなるとAF用の外側センサーが使えなくなるほか、フラッシュもケラレることになる。一般用途としては12倍ズームは必要なのだろうが、無理を承知で言うならば、取材用途ではズーム倍率を落としてでも広角が欲しいところだ。

 本体にはアナログAV出力とヘッドフォン出力の兼用端子があるが、再生モードでいったん電源がOFFになると、勝手にアナログAV出力に設定が戻ってしまう。この状態でイヤフォンをつなぐと、プギャーとものすごい音がする。取材をまとめようとしてイヤフォンを突っ込むたび、何度も鼓膜がふっとびそうになった。これはさすがに設定を記憶するようにならないだろうか。慣れない外国で耳鼻科に担ぎ込まれるような羽目は勘弁して欲しい。

 もうひとつ改善を望む点は、USBの扱いである。現在内蔵メモリの動画をPCなどにUSB経由でバックアップするためには、カメラにACアダプターを接続しなければならない。ということは、いったんホテルなどのベース地に戻らなければ、バックアップできないということになる。

 SDカードに移せるとはいうものの、内蔵メモリと同容量の16GバイトのSDカードを購入するというのは、ちとキツい話だ。さらに現実問題として、本当にACをつながないと駆動できないのか、という話もある。実はHF10でも、静止画再生モードの時は、ACアダプターなしでもUSB接続できる。

 動画再生モードでもACアダプターなしで接続できるのは、筆者の知る限りではソニーのハンディカムだけである。すでに実現できているメーカーがあることを考えると、技術的な障壁は少なく、仕様の問題だろうと思われる。

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