小寺信良の現象試考
アナログ停波までに片付けねばならない5つの課題(1/3 ページ)
去る7月25日、情報通信政策フォーラム(ICPF)の今年度第1回シンポジウムに出席した。議題は「2011年 地上デジタル移行は完了するのか」である。アナログ停波は2011年の7月24日だから、シンポジウム当日は、ちょうどあと3年というタイミングであったわけだ。
アナログ停波はすなわち、デジタル放送への完全移行を意味する。すでにヨーロッパではアナログ停波した国もいくつかあり、米国は来年2月に停波する予定だ。
個人的には、過去アナログ停波反対を訴えてきた経緯もあるわけだが、それはこれまでのアナログ放送に比べ、デジタル放送があまりにも不便になっているからである。その問題は今も解決していないのだが、このままアナログ停波を強行すればそれ以外の理由で、数多くの問題が発生することが分かった。
今回はすでに停波した国、そして米国での事情をにらみながら、日本国内でアナログ停波までに片付けておくべき課題について考えてみたい。
5000円チューナー問題
総務省情報通信審議会の第5次中間答申では、来年の夏までに5000円以下の簡易デジタルテレビチューナーを商品化するように求めている。一方で現実は、単体の地デジチューナーは2万円前後、PCに接続するチューナーでも1万5千円前後となっている。5000円という価格は、あと3年以内に実現できるのだろうか。
先日、NECエレクトロニクスが、地デジ受信に必要なほとんどの機能を1チップ化したLSIを開発したと発表した。実際このチップがいくらで出されるのかは定かではないが、メーカー関係者に言わせれば、今のところそうとう頑張っても9800円ぐらいが限度のようだ。
そもそもストリートプライスが5000円だとすると、販売店の利益を2割とすれば、卸値は4000円だ。その中でメーカーも利益を出さなければならないわけだから、実質3000円程度で作らなければならない。そうなると必要最小限として切り詰めるのは、部材ではなくサービスだ。例えばデータ放送を受信しないといった仕様にすれば、その分、それに関わる特許使用料が安くなる。
製造コストなどは、中国に発注するなどしてぎりぎり切り詰めるとしても、特許料は圧縮できない。もし国がなにかできるとすれば、このあたりで特例を設けることだろう。
ここで提案したいのは、テレビやラジオの初期を振り返ってみることである。昭和初期にこれらの放送が始まったときには、まだメーカー製の既製品というのは存在しなかった。NHKが設計した回路図や設計図を無償公開し、それを元にキットが作られたのだ。多くの人は、それらキットを買ってきて、自分でテレビやラジオを組み立てたのである。
これはそのまま秋葉原電気街の発祥に繋がっていく。当時電線などの電気部材を扱っていた秋葉原と、その近くにある東京電機大学の学生という特異な労働力が合致して、キットを店頭で組み立てて販売することで、今の秋葉原の原点が形作られていった。
地デジもそんな具合に、キットにしたら面白いと思う。それだったらおそらく、実売5000円は可能だろう。
なぜ値段にこだわるかと言えば、生活補償の問題があるからである。現在の議論では、生活保護世帯に関しては無償でチューナーを配布することが提案されている。しかしそこだけでなく、身体障害者や知的障害者へも枠を広げるとするならば、価格が安いということは必要条件になる。
ネット上では、アナログ停波とともにテレビを見なくなるという人も多く見られる。それは、テレビに代わるメディアをすでに持っているからである。しかし逆に考えれば、そういうメディアを使うことができない人達こそ、テレビは必要とされるということなのである。最小限の負担で、従来と変わらない視聴ができるためにどうすればいいかというのは、我々が思考停止になってはいけない問題だ。
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