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コラム
» 2008年12月01日 10時00分 公開

小寺信良の現象試考:「一億総クリエイター」という勘違いに至る道のり (3/3)

[小寺信良,ITmedia]
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User Generated Contentの本質

 ネット上のコミュニティ内からコンテンツが産まれ、それが新しい産業母体になるのではないか。知財戦略の中でこの議論はもはや外せないものとなって久しい。確かにニコニコ動画が産んだムーブメント、初音ミクやMAD、踊ってみた、歌ってみた、といったアマチュアの表現活動が人を集め、テレビに変わる新たな娯楽ソースとして機能し始めている。

 一方、課題として、いかにそれをビジネスとして回していけるか、というところが解決できていない。コミュニティの参加者が、コンテンツがお金に変わることを嫌う傾向にあるからだが、どこかでお金を産むフェーズを作らなければ、コミュニティの場が長期間維持できなくなる。

 単に楽しむ側、一方的な娯楽受動者からすれば、そんなものは一過性のものであって、次に面白いものが出てくれば単にそれに乗り換えるだけにしか過ぎない。しかし娯楽を提供したいと思う側からすれば、人が集まる場の存続性は大きな問題だ。

 アマチュアの娯楽提供者側としては、それでプロになろう、食えるようになろうという傾向のそれほど強くないというのが、ネット時代の特徴であろう。つまりこれらのコミュニティは、プロへの登竜門として開かれているわけではない。漫画家の出版社持ち込みとは違うのだ。

 なぜならば学生やニートの人は別にして、多くのアマチュアクリエイターは別に本業を持っており、そこからの収益を趣味としてクリエイティブ行為に回すという、「セルフパトロンシステム」で動いているからである。中にはプロのクリエイターなんだけど、自分のやりたいことをやるために、本業とは別のものを無償で提供するというケースも存在するだろう。

 CGMからコンテンツが産み出されるというケースは、過去2ちゃんねるに顕著な事例が多い。ただ娯楽という視点から見れば、CGMがコンテンツを産むのではなく、「場に参加することそのものがコンテンツ化している」という方が正しいだろう。例えば嫌儲(けんちょ)という考え方も、この点を理解しなければ解釈が難しい。

 つまり、商業物として独立することが可能なコンテンツは、それを切り出せば「発生する」と言えるのだが、そのコンテンツが産み出される課程自体を多くの人が共有する事ができる。これまで商業コンテンツとして制作されるものは、制作に関わるスタッフしかその成立過程に立ち会うことが許されなかったのだが、CGMではそれができるわけだ。

 実際にCGM内で何かを制作しているのは、1人もしくは数人に過ぎない。しかし成立過程を共有する者全員が、アイデアを出したり、さらに言えば雰囲気や流れを作ったという意味での貢献はあり得る。これは、コンテンツそのものが人の共同体を形成している状況だ。その中から成果物だけを商業作品として取り出してしまうと、コミューン総体としてのコンテンツが壊れてしまうことになる。そこに対する抵抗が、嫌儲という形で現われるのであろうと推測される。これでは、単に「全員に分け前を与える」ということでは解決できないはずである。

 筆者の考えでは、成果物だけ抜き出して商業コンテンツ化する、すなわち旧来のメディアにパッケージングして大量販売を行なうというビジネスモデル自体が、古くさい方法に向かっての逆行ではないかという気がする。それをやりたいのは流通者だけで、本人たちは積極的にそれを望んでいないのだから、これはもう仕方がない。もし無理にやるとしたら、ある意味ネット権が構想したような、著作権を強制的に許諾権から報酬請求権に転換するような事でもしなければ、難しいということになる。

 そもそも商業物としてのクオリティを持ち、権利処理が可能なUser Generated Contentは、数としてはものすごく少ないのではないかと思う。ニコニコモンズでUGMとしての実験が始まっており、筆者もいくつか素材を提供して状況を観察しているが、全くのアマチュアが模倣でも内輪受けではない、独立したコンテンツにたどり着くまでは、嘆息するほど相当に遠い道のりであるように思える。一億総クリエイターなどは、ただの幻想である。

 さらにUGCは常にアンコントローラブルで、自然発生的に生まれてくるだけなので、計画的生産などは不可能だ。どちらかと言えば「採集」に近い。それでは事業計画にならないだろう。

 むしろその成果物そのものを売ろうとするよりも、個人でクリエイターとして立って行く能力があり、そのつもりもある人間をゲットする場、もしくはそういう人間を育成する場として方向づけたほうがいい。そしてプロのクリエイターとして仕事をする気のあるものに対して、作品を発注していくというパトロンシステムのほうが、自然だろうと思う。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。

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