アップルからカナル型イヤフォン「Apple In-Ear Headphones with Remote and Mic」が発売された。発表は第4世代iPod nanoと同時に行われ、12月中旬には店頭に並び、僕も入手していたのだが、年末年始のドタバタでじっくり使ってみることができず、本格的に使用し始めたのは今年に入ってから。出遅れ気味のご報告となってしまったが、その分エージングも済み、各機能を使う機会にも恵まれたので、使用感も交えた詳細なリポートをお届けしようと思う。
まずは製品の特徴から。このイヤフォンは、ボリューム調整や曲送りなどのリモコン操作に加えてマイクも内蔵した多機能タイプだが、最大の特徴といえるのは、やはりバランスド・アーマチュア型のユニットを採用していることだろう。1万円を切る価格設定(Apple Storeでの販売価格は9400円)でありながら、リモコンやマイクを内蔵、さらにバランスド・アーマチュア型を2ユニット採用しているなんて、スペックを見ただけでも“買い”と思ってしまう充実度。
イヤフォンに詳しい人は既にお分かりかと思うが、実売1万円以下のカナル型で、ここまで充実した内容を持つ製品は皆無と言っていい。一般的にミドルクラスまでのイヤフォンではダイナミック型が主流だし、バランスド・アーマチュア型を採用してしても1ユニットが限度だ。
ダイナミック型とバランスド・アーマチュア型。両者にどういった違いがあるのか、ちょうどいい機会なので簡単に説明しよう。
ダイナミック型スピーカーは、電磁コイルに電気を流し、磁石との反発を利用して振動板を動かす、半世紀以上基本構造の変わっていないオーソドックスなスタイル。超がつくほどオーソドックスな構成のため、コスト的にもサウンド的にも無難なことが特徴といえる。そのためホームオーディオからヘッドフォンまで、さまざまな製品に利用されている。
汎用性の高いダイナミック型だが、マイナスポイントとしてはまずその許容サイズが挙げられる。コイルが振動板と一体化する構造となるために、可動部分のマスが大きく、単純に小さくしてしまうと音圧が下がる(大きな音が出にくくなってしまう)うえに、再生できる周波数帯域も狭くなる傾向にある。また高域がひずみやすい性格も持つため、ヘッドフォン、特にカナル型という極小サイズを望まれるジャンルでは、不利な形式といえる(逆にウーファーなどは得意とする)。
一方のバランスド・アーマチュア型スピーカーは、コイル/磁石/振動板という基本構成はダイナミック型と変わらないものの、稼働するのは振動板のみとなるため、補聴器などで使われてきたことで分かるとおり、サイズ的にはかなりコンパクト化が可能。また高域特性も良い。
ただし音圧が根本的に低く、特に低域の絶対的ボリュームが弱いのが難点。カナル型は耳穴へ入れて利用するため、ある程度は低音の弱さは回避できるものの、それでもダイナミック型の音圧にはほど遠い。屋外や電車内など騒音の多い場所では、カナル型であっても低音がかき消されがちになるため、どうしても迫力が薄れてしまう。
それを補うために、ある程度以上の価格帯(2万円以上が多いようだ)のモデルではモデルではドライバーユニットを2つ、最高級モデル(5万円前後)では低域用2つと高域用1つの合計3つのユニットを搭載して、バランスを整えるようにしている製品が多い。ドライバー自体が構造上ただでさえ高価になりがちなうえ、音質を追求しようとすると、ユニットを複数搭載することになり、さらに高価な製品となってしまう傾向がある。
このようにどちらの形式にも一長一短。特に1〜2万円の価格帯の製品ならば、バランスド・アーマチュア型を採用することも可能であるため、その選択にメーカーも大いに頭を悩ませている。アップルはそんな価格帯に、2ユニットを搭載したバランスド・アーマチュア型のヘッドフォン、しかもリモコン+マイクという付加機能までも搭載してデビューさせたのだ。これを意欲作ととらえない方がおかしいだろう。
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