コネリーでもムーアでもクレイグでも、ジェームズ・ボンドはカッコイイ。困難な作戦をスマートに解決するさまは、心にスパイ=かっこいいのイメージを強烈に植え付けてくれる。
そして、その魅力に華を添えるのが秘密兵器の数々。ボンドが身につけていたり、作戦に備えて用意する超小型カメラやペン型爆弾、いろいろな機能を内蔵した腕時計。どれもピンチを一瞬でチャンスに変える威力を秘めたアイテムたちだ。
腕時計?そこにもあるじゃないか。
やや遠回りした書き出しになったが、ようするにコレ。OTASが販売開始した秘密兵器……ではなく、腕時計型の多機能プレーヤー「Video Camera MP4 Watch 8GB」だ。
8Gバイトのメモリを内蔵し、各種メディアファイルの再生が可能な多機能プレーヤーだが、最大の特徴は動画/静止画撮影可能なカメラを備えること。「どんな用途で使うか」というもっともな疑問はさておいて、実機を入手できたのでさっそくさわってみた。
1.8型の液晶を搭載した本体は、時計としてみるとかなり大柄。バンドはメタルなので、ある程度の長さ調整をしようと考えると工具を用意して自分でコマを詰めるか、時計店に持ち込む必要がある。側面には再生やモード切り替え、音量調節のボタンと3.5ミリステレオミニジャック、USBプラグが用意されている。
電源は内蔵のリチウムイオンバッテリー。PCのUSB端子から充電する形式で、フル充電には4時間ほど必要。利用する機能(メディアファイル再生、静止画撮影、動画撮影、時計表示など)によって電池駆動が可能な時間は異なるが、動画撮影時には90分の連続駆動が行える。ちなみに再生できる音楽ファイルはWMA/MP3(いずれもDRM非対応)で、USB接続時にドラッグ&ドロップすることで転送を行う。
そのほかにもボイスレコーディング、テキストリーダーの機能も備えるが、テキストリーダーは英語/中国語のみの対応で、日本語は非対応。カタチからすると、腕時計が基本機能になりそうなものだが、実は時間が見たければ、自分で時計機能を呼び出してやる必要があるので、実質的には音楽再生とカメラ、ボイスレコーディング、そしてオマケの時計という3in1+1と考えた方がいい。
音楽再生については、全曲再生/アーティスト別/アルバム別などといった再生方法を選択でき、3種類のプリセットイコライザ適用や再生速度の変更なども行える。ただ、内蔵スピーカーは想像通りプア。イヤフォンを接続すればその点はクリアできるが、手首から耳元までケーブルが延びるというのは、どうも使いづらい。
最大の目玉、カメラ機能をみてみよう。
撮影可能な動画/静止画のサイズは、動画が352×288ピクセル(AVI)、静止画が640×480ピクセル(JPEG)。メインメニューから「カメラ」を選択すると、自動的に動画撮影モードで起動する。静止画を撮影する際には、側面のボタンを押して切り替える。
静止画については、コントラスト/明るさ/色合い/画質の調整が行えるほか、ワンプッシュで4枚を連写する機能も備えているが、動画についてはそうしたオプション機能はない。
液晶の追従速度はお世辞にも速いといえず、液晶の視野角も狭い。デジタルズームも備えていないので、実質的な有効撮影距離は1〜2メートル程度までだろう。マイクも搭載しているので、きちんと“音付き”で録画されるが、身につけるという装着方法のためか、本体と肌が触れる音などが常時入り込んでしまうので、クリアとはいえない。
撮影できる動画については以下を見てもらうのが一番早いが、基本的には「お遊び」レベルと認識しておいた方がいい。発色も不自然で、画像も粗い。クオリティだけを問えば、最新携帯電話の動画機能の方が良いだろう。それに、手首につけるため、撮影しながら歩いたりするとかなりの手ブレ(腕ブレ?)も入る。レンズのせいなのか撮像素子のせいなのか、フォーカスがかなり甘く、ボヤーっとした感じに写るので、そのあたりは味として割り切るしかなさそうだ。
音楽を聴きたいならiPodやウォークマンを使えばいいし、動画を撮りたいならばデジタルビデオカメラを使った方がいい。時間を知りたいなら腕時計だ。なにも全部まとめて腕に巻き付けることはない。でも、この製品は販売開始後、すぐに完売してしまった。
よくよく考えたら不便じゃん――毎回そうした感想が寄せられながら、これまでに携帯電話やテレビ、PDA、カメラなどさまざまな製品が“腕時計化”して、そして、商業的な成功は収められずに姿を消していった。
そう考えると、“腕時計型”はある種のロマンなのかもしれない。「グッとくるから作ちゃった」と「グッとくるから買っちゃった」でいいのだろう。きっと。
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