「これがあれば、3Dテレビはいらないじゃないか」。NHK技術研究所の恒例「技研公開2011」で、来場者は一様に驚きの声を上げた。NHKとシャープが共同開発したスーパーハイビジョン対応85V型液晶ディスプレイは、2D表示専用にもかかわらず、実に自然な立体感を表現していた。日本画質学会副会長を務める“画質の鬼”、麻倉怜士氏に詳しい話を聞いた。
――今年の技研公開の目玉、85V型のSHV(スーパーハイビジョン)対応液晶ディスプレイは、かなりの驚きでした
麻倉氏:素晴らしい映像でしたね。わたしは記者発表会とプレスプレビューで2回見に行きましたが、周りにいた皆さんが、「もう3Dはいらない。これが3Dでしょ」と言っていましたのが印象的でした。
例えば、東京の高層ビル群を空撮した映像――といってもあまり動いてはいませんでしたが――ビルがニョキニョキと立って、まるでこちらに向かってくるように感じるではありませんか。また、満開の桜を撮った映像もすごく立体的で、枝や舞い散る花びらがフレームの外にまで出てくるような印象を受けました。
――スーパーハイビジョンは何度も見ていますが、ここまで立体的に感じたのは初めてです
麻倉氏:そうですね。前回までのプロジェクターによるデモンストレーションで立体的に見えることはありませんでした。今回それを感じたのは、まず直視型の液晶ディスプレイという点が大きかったと思います。85インチに3300万画素(7680×4320ピクセル)という精細さ、UV2A技術による高いコントラストが相まって立体感に通じたのでしょう。例えば東京上空の映像では、ビルの持っている輪郭がはっきりと描かれ、またハイライト部とシャドウ部の関係が忠実に再現されていました。
また、桜のシーンでは明らかに運動視差も働いています。つまり、カメラがパンした際に手前の枝は動きが速く、奥のほうは動きが遅い。それに手前ははっきり見えて、奥は適度にぼける。そうした違いが高精細な画面で再現されていたことが立体感につながったと考えています。
面白かったのは、インテグラル立体テレビの取材をしていたとき、技術者の方が、「8K×4Kの直視型という、すごいライバルが出てきました」と言っていたことです。同方式の展示機もすごく明るくなり、奥行き方向の解像度が倍になるなど大きな進歩を遂げていましたが、8K×4Kのように3D表示の仕組みを持たない表示装置でも、とにかく精細でコントラストのある直視型ディスプレイは自然な立体感を感じることができます。今回はそれがよく分かりました。
――スーパーハイビジョンに対する期待も高まったと思います
麻倉氏:スーパーハイビジョンは、2020年に実験放送が始まり、2025年には実用化試験放送が計画されています。今回の技研公開では制作機器の小型化も進み、環境は整ってきたといえるでしょう。現行ハイビジョン放送は1992年に実用化試験放送が始まり、その後アナログからデジタルへの移行を経て、2000年からデジタルハイビジョンの本放送が開始されました。スーパーハイビジョンのスケジュールも、タイミングとしては悪くないと思います。
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