体重や心拍、血圧、体温などの計測データが自動でPCやスマートフォンに送られたり、PCから離れると自動でロックがかかったり、家の中で迷子になったカギや小物を音で探せたり――。こんなことを可能にするのが、近距離無線技術として知られるBluetooth 4.0のシングルモードだ。
こうした使い方は、機能だけなら従来のBluetoothでも実現できたが、消費電力面の問題から体温計や腕時計、心拍計などの小型機器に搭載するのが難しく、それがより広い分野へのBluetoothの普及を阻んできた。2010年に発表されたBluetooth 4.0のシングルモードは低消費電力で稼働するのが大きな特徴で、いわば、フルスペックのBluetooth 4.0(デュアルモード)から“低い消費電力で小さなデータを送る機能”を切り出したようなもの。こまめに充電したり、大型バッテリーを搭載したりする必要がなくなり、ワイヤレス接続への対応が難しかった機器への実装が可能になることから、デバイス活用の新たな可能性を開く技術として期待が寄せられている。Bluetooth SIGでチーフ マーケティングディレクターを務めるシューク・ジョワンダ氏は、「ボタン電池1個で、1年〜2年くらいバッテリーが切れないようなBluetooth搭載製品を開発できる」と胸を張る。
2010年7月に仕様が発表されたBluetooth 4.0は、搭載の準備期間を経て、2011年の第3四半期からさまざまな製品が登場し始めたとジョワンダ氏。アップルのMacBook AirやiPhone 4S、Mac miniを皮切りに、MotorolaのDROID RAZR、AcerのAspire S3シリーズが相次いで対応し、マイクロソフトもWindows 8でのサポートを表明するなど、順調に拡大している。
シングルモードに対応する製品も次々と登場しており、日本でもカシオ計算機がスマートフォンと連携する「G-SHOCK」(GB-6900)を年末にリリースする予定。ジョワンダ氏は心拍数を測れるヘッドフォンを紹介した。音楽を聴いているだけで心拍数が計測され、そのデータはボタンを押すだけでスマートフォンに送信できるという。「スマートフォンにアプリが入っていれば画面上でデータを確認でき、クラウドに送信してさらなる活用もできる」(ジョワンダ氏)。3Dテレビ用のメガネに搭載する計画もあるなど、活用の幅はさらに広がりそうだ。
対応デバイスの出荷台数は今後、急速に伸びると予想され、「2014年には2011年の2倍にあたる年間40億台に達するという見方もある」(ジョワンダ氏)としている。
Bluetooth 4.0のデュアルモードとシングルモードは、それぞれ機能に応じた役割を担っている。体温計や体脂肪計、歩数計といったシングルモードのデバイスが集めたデータを、デジタルハブの役割を担うPCやタブレットなどのデュアルモード端末が受け取り、活用するというイメージだ。
ただ、注意しなければならないのは、シングルモードが従来バージョンのBluetoothと互換性がない点だ(デュアルモードは互換性がある)。せっかく低消費電力がウリの腕時計や歩数計が出てきても、その接続先となるPCやスマートフォン、タブレット端末がデュアルモードに対応しなければ使いようがなく、利用者にとっても“どの製品が何と接続できるか”が分かりづらい。この問題を解決するために、Bluetooth SIGは新たなロゴを作成し、認知の向上を目指す。
具体的には、デュアルモード機器に「Bluetooth Smart Ready」、シングルモード機器に「Bluetooth Smart」というロゴシールを貼り、互換性があることを示す。シールを貼れるのはBluetooth SIGが認定した機器のみで、貼るかどうかはメーカーが決められるという。
Bluetooth Smart Ready製品として認定されるためには、(1)Bluetooth 4.0のデュアルモード搭載(2)シングルモード機器との接続に対応(3)従来バージョンのBluetooth機器との接続に対応 に加え、(4)ソフトウェアによるアップデートへの対応 という要件を満たす必要があるという。これは、Smart Ready端末にBluetoothのチップセットが搭載されていれば、機能がバージョンアップされたときにもアプリのアップデートで対応できるようにするためだという。ジョワンダ氏によると、これまでBluetooth SIGで要件を課したことはなく、「エンドユーザーにベストな体験を提供するための新たなステップになる」と自信を見せた。
ジョワンダ氏は、省電力性に優れたBluetooth 4.0の登場で、市場の拡大が加速すると予測する。今は従来からあるPCやタブレット端末、スマートフォンに注力しているが、次の段階としてテレビに注目しているという。同氏はSamsungがBluetooth対応の3Dテレビ対応メガネやリモコンの開発を検討していることや、ネット対応のテレビがデジタルハブとしての役割も担うようになることなどを挙げ、今後の搭載の広がりに期待を寄せた。
ほかにも、さまざまな計測機器があるヘルスケア市場、テレマティクス対応が進んでいる自動車市場、今後の成長が期待されるスマートエネルギー市場での普及が見込めるとした。「(スマートエネルギー分野では)従来は配線工事が必要だった機器でも、(Bluetooth 4.0に対応することで)配線を気にせず屋内外に置けるようになる。部屋に置いた温度センサーを使い、“この温度になったら冷房や暖房を入れる”といった制御をワイヤレスでできるようになれば節電の助けになる」(ジョワンダ氏)
ジョワンダ氏は、Bluetooth 4.0のシングルモードがなければBluetoothと接続できない機器が数十億台はあるとし、これらの機器をワイヤレス対応にできるのは、機器メーカーにとって大きなメリットになると強調。それが新たな市場の創出につながるといい、メーカーにBluetooth SIGへの参加を呼びかけた。
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