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ノミネートする部門で明暗が分かれる?――ブルーレイ大賞の舞台裏(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/4 ページ)

» 2012年02月29日 17時04分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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 2月15日に発表された「第4回 DEGジャパン・アワード/ブルーレイ大賞」。業界に衝撃を与えたグランプリ発表の顛末(→グランプリ「山猫」の衝撃――ブルーレイ大賞の舞台裏)に続き、後編では部門別の傾向と受賞作について、審査委員長を務めたAV評論家・麻倉怜士氏に詳しく解説してもらおう。

お気に入りの「FUJIFILM X-Pro1」(おまけコーナーを参照)を構える麻倉怜士氏

――後編では、AVファンの注目度の高い「ベスト高画質賞」「ベスト高音質賞」などについて伺いたいと思います

麻倉氏::まず「ベスト高画質賞」については、邦画のノミネート作が増加傾向にあるため、今年から「邦画部門」を新設し、「洋画部門」と「邦画部門」「ビデオ・TV・ドキュメンタリー・音楽部門」「アニメ音楽部門」の4部門となりました。

 このうち洋画部門を受賞したのが「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1 DVD&ブルーレイセット(3枚組)」(ワーナー)。これは全体的に暗い場面の多い映画ですが、きちんとコントラストがあり、フィルム感も出ているという、分かりやすい高画質になっています。

「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1 DVD&ブルーレイセット(3枚組)」(ワーナー エンターテインメント ジャパン)(左)、「ソーシャル・ネットワーク」(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)(中)、「相棒ー劇場版IIー警視庁占拠!特命係の一番長い夜」(テレビ朝日/ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメントジャパン合同会社)(右)

 惜しくも受賞を逃した作品(ノミネート作)ですが、審査員特別賞を獲得したのがソニー・ピクチャーズの「ソーシャル・ネットワーク」。ソーシャル・ネットワークは、4Kカメラの「Red One」で撮影した作品で、明らかにノイズが少なく、ピーク感も良く出ていました。画質的にも新しいコンセプトで、新しい映像世界が広がったというイメージ。すごく印象に残った作品ですね。

 一方の「邦画部門」を受賞したのは、テレビ朝日が制作した「相棒ー劇場版IIー警視庁占拠!特命係の一番長い夜」(ジェネオン・ユニバーサル)です。この作品は、CGかと思わせるような解像感の高さ、冷たいトーンの切れ味を持つ、不思議なテクスチャーの映像で賞を獲得しました。ノイズが目立たず、階調感がとげとげしく出るのですが、そこに意図性が感じられます。つまりは誇張した画作りなのですが、破綻(はたん)が全くありません。非常にユニークというか、これまでにない画質でピクチャートーンの新しい方向性を打ち出した作品だと思います。制作者の狙いが確かで、しかもノイズが少ないことが、ベスト高画質調・邦画賞受賞の要因でしょう。

「カーズ2」(ウォルト・ディズニー・ジャパン)

 実は、邦画賞については、ほかのノミネート作に「耳をすませば」「借りぐらしのアリエッティ」といったジブリアニメが含まれていましたが、本来なら「アニメ部門」にノミネートされるべきではないでしょうか、アニメ部門には「カーズ2」(アニメ・音楽部門受賞)があったため、ディズニー作品同士の争いを避けたのでしょう。ノミネート部門を決めるのはメーカーですから。

 実際、「借りぐらしのアリエッティ」は素晴らしい画質です。その色の美しさは、セル画というより、絵画と言いたくなるほど。この作品に限らず、ジブリ作品はアニメ特有の圧縮の難しさを感じさせません。コンテンツ(内容)の良さにプラスして、素晴らしいBlu-ray Discを作りました。個人的には、同じ部門にノミネートされていたら、「カーズ2」よりも上にいったのではないと感じています。

――ノミネート部門を決めることもメーカーの戦略の1つなのですね。メーカーは“2冠”を狙ったと思いますが、ジブリ作品には少しかわいそうな結果になってしまいました

麻倉氏:来年がんばってもらいましょう。次に「ベスト高音質賞」について解説しようと思いますが、ここには前編で取り上げた「スター・ウォーズ コンプリート・サーガ ブルーレイBOX」がノミネートされていて、やはり違和感を感じました。もしベスト高画質賞の洋画部門でノミネートしていたら、ひょっとすると結果は違ったのかもしれません。スター・ウォーズ6部作の中でも1977年公開の「エピソード4」が素晴らしい画質になっていたことは印象的でした。

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