最近、いまひとつ話題に欠ける3Dテレビ。とくに放送波による3D番組の提供はなかなか広がらない状況だ。しかし、AV評論家・麻倉怜士氏によると、世界では状況が異なるという。4月上旬に仏カンヌで開催された放送局のための番組トレードショー「miptv」(mip:Market、International、Program)の模様を詳しく話してもらった。
――「miptv」はどのようなイベントですか?
麻倉氏:miptvは、49年も続く放送局の番組輸出のためのトレードショーです。会場は5月のカンヌ映画祭と同じ場所で、参加者は1万1000人、このうちバイヤーが4000人でした。今年は、景気の問題もあってイタリアやスペインからの参加者が減っていたのですが、逆に米国や中国からの参加は増え、全体では昨年と変わらないレベルだったそうです。
日本の放送局でも海外の番組を放送することは多いですし、過去にはNHKの連続テレビ小説「おしん」が海外で人気になったこともあります。放送局にとって海外の番組を購入したりするのは普通のこと。miptvのようなショーは有望な番組を見つける良い機会なのです。展示会場では日本からの出展も多く、在京の大手キー局はすべてブースを出していました。
miptvは、毎年4月と10月にカンヌで開かれるのですが、とくに春は技術革新に力を入れており、今回はスマートテレビ、動画配信、3Dにフォーカスしていました。イベント内イベントとして、「3D focus」という専門セミナーが開かれ、欧州各局の3D担当者や米国の映画会社、研究機関などが集まり、2日間にわたって3D事情を語り合いました。私はそこで10件ほどの個別インタビューを行い、欧州の最新3D事情をつぶさに知ることができましたので、報告したいと思います。
――3Dの放送コンテンツというと、日本ではいまひとつ盛り上がりに欠ける印象ですが、海外では違うのでしょうか
麻倉氏:日本は3D対応テレビがそこそこ売れていて、Blu-ray 3Dも増えているのですが、いかんせん放送が少ないですね。現状、3Dの番組を常時放送しているのは「スカパー!HD」の「スカチャン3D」1局のみ。BSではテレ朝やTBSが時折、放送していますが、番組数はあまり増えていません。
現在の停滞感は、やはりコンテンツ不足が大きな原因だと思います。これには、3Dに対してNHKがまったく無関心であることも影響しています。NHKには、NHKメディアテクノロジーという3Dに強いプロダクションがあり、音楽番組やドキュメンタリーなどを独自に作っているのですが、いかんせん本体はまったく興味を持っていないです。それはmiptvの現場でのインタビューで分かりました。
しかし、世界では状況が異なります。英国の調査会社、IHS Screen digestによると、世界では31の3D専門局が放送を始めており、ほかにも30局が随時放送しているそうです。専門局はCATVや衛星といった有料放送が中心ですが、3Dのチャンネルを含むパッケージは、“より高額で売れる営業ツール”になっているといっていました。
3D専門局は、フランスに5局、アメリカの3局、ポーランドに3局、ドイツとロシアが2局あり、複数の専門局がある国も少なくありません。そのほか、1局だけあるのがイタリア、イギリス、スペイン、オランダ、スイス、チェコ、スロバキア、イスラエル、エストニア、ノルウェー、韓国、オーストラリア、日本など。世界には実に多くの3D専門局があることが分かるでしょう。
2012年は、その3Dを推進するイベントとしてロンドンオリンピックがあります。五輪はいままでもテレビのカラー化やハイビジョン化を推進してきましたから、これらの3D専門局は五輪の3D放送を重視しています。
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