――いよいよ第1位です
麻倉氏:第1位は、やはりHybridCastです。現在、市場にあるスマートテレビの多くは、専用ボタンでVODで立ち上げるといった具合に放送とIP通信が完全に分かれています。そうなると、放送はテレビで視聴するコンテンツのワン・オブ・ゼム――たくさんあるコンテンツの1つにしかなりません。対してNHKのHybridCastは、放送では伝えきれない情報を提供するなど、ユーザビリティーの向上にIP通信を利用します。“放送の魅力を増す”という意図が明確なのです。
またタブレット端末やスマートフォンを使ったセカンドスクリーンの仕組みも提案しています。番組表がタブレットに届き、手元の操作ですぐにテレビ画面に映し出すことができます。それだけですと単なる多機能リモコンですが、番組の進行に合ったタイムリーな関連情報を取得できたり、番組を見ていて気になったことをネットで検索できたりもします。ただ、タブレットとテレビ画面の視線移動も煩わしいケースがあるため、HTML 5ブラウザの表現力を使って同じ情報をテレビ画面に重ねて映し出すこともできます。やはりテレビは受け身で楽しむリーンバック(後傾姿勢)のコンテンツですから、これも重要な提案だと思いました。
また、HybridCastの展示で画期的だったのは、試作機を展示したテレビメーカーが昨年の2社から5社に増えたこと。さらにWOWOWやフジテレビといった放送局も展示に参加したことです。中でもフジテレビのCM連動サービスでは、テレビCMの内容にあったアンケートやゲームがタブレットに表示されること。放送業界を挙げてこの新しいサービスに取り組もうとしていることがうかがえます。
もう1つ面白かったのは、ネット経由で取得するデータは録画機に残らないことです。生の放送とVODの見逃し視聴などには対応しますが、録画については一歩引いたスタンスですね。説明員に話を聞いていたとき、「やはり放送は生です」と言っていましたが、全録機も登場した時代に、またこの言葉が聞けるとは思いませんでした。NHKは、それだけ放送というものに対する自信があり、HybridCastの魅力を加えることで再び視聴者をリアルタイムの放送に呼び寄せたい、という意識を持っています。それをはっきりと感じました。もちろん録画に残らない点は、視聴者の利便性からみると異論もあるとは思いますが。
展示会場にはHybridCastのさまざまなデモンストレーションがあり、いずれも具体的な提案を含んでいました。放送と通信の融合、あるいは“日本型スマートテレビ”という観点から見ても、とてもユーザーフレンドリーなソリューションだと思います。また、東芝が展示した試作機は、昨年発売されたレグザ「Z3シリーズ」のハードウェアをそのまま使っているそうですから、処理能力などの技術的なハードルもさほど高くはないと予想できます。放送を楽しむための“本当のスマートテレビ”が登場するという意義も合わせ、技研公開2012の展示ランキング、ナンバーワンに推したいと思います。
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