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“大人の音”に生まれ変わったKEFの新「Qシリーズ」潮晴男の「旬感オーディオ」(1/2 ページ)

» 2013年07月09日 16時35分 公開
[潮晴男,ITmedia]
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 オーディオ再生において、およそ70%の支配力を持つというスピーカー。だからこそスピーカー選びには妥協したくないし、一度ほれたらとことん付き合いたい。そしてここからオーディオの本当の楽しさとつらさが始まるという意味では、スピーカーとのお付き合いはどこか恋愛と似ているのかもしれませんね。


 しかしながらスピーカーほど選択肢の多いオーディオ製品も少なくない。日米欧、さらには東南アジアから南アフリカまで数多くのメーカーが存在する。オーストラリアやニュージーランドにもあったような……。もっとも国産のモデルにかっての勢いはなく、製品数も少なくなっている現状を見るにつけ、オーディオ・ファンの一人として憂う部分もあるが、その一方でクリプトンやイクリプスのようなオリジナリティーの豊かな新興勢力の台頭もあるので、やっぱりスピーカーは面白いと思う。

 ここで紹介するKEFは、1961年に英国で生まれたスピーカー・メーカーである。初期には英国のNHKに当たるBBCに向けたモニタースピーカーを作っていたことでも良く知られている。このKEFが一大変貌を遂げる切っ掛けが、1978年に登場した「Uni-Q」(ユニキュー)と呼ぶ同軸型のドライバーユニットだった。スピーカーが理想とする点音源を実現するために開発されたUni-Qドライバーは、以来改良が施され名実ともにKEFの顔になったのである。

新しい「Qシリーズ」(左)と「Uni-Q」(ユニキュー)ドライバーの内部構造(右)

 そのUni-Qドライバーを搭載したエントリークラスのスピーカーが「Qシリーズ」だ。KEFにはこの上位に「Rシリーズ」、さらにその上に「リファレンスシリーズ」が用意されている。最上位機に創立50周年を記念して発売された「ブレード」という製品もあるが、大きくはこの3つのラインアップがこのメーカーの主力モデルであり、稼ぎ頭というわけだ。

 今回発売された新「Qシリーズ」は、細部に渡る改良が施されているものの、外観上前作との違いがほとんど分からない。しかもモデル名も全く同じ。普通ならは数字や桁数が変わるのにそれもなし。それでは前作との区別がつかないのでささやかに、「Vup=バージョンアップ」とだけ付け加えた。

 改良のポイントは主にユニットだが、エンクロージャーも仕上げを変えるなど、実にきめが細かい。シリーズの最上位機「Q900Vup」を例にとると、200ミリ口径のUni-Qドライバーは、振動板とボイスコイルを結ぶリード線の素材を高純度銅線に変更することで、リニアリティーを高めるとともに歪(ひずみ)を低減した。

「Q900Vup」(左)と200ミリ口径のウーファー(右)

 Uni-Qドライバーと200ミリ口径のウーファーは、いずれもダンパーを見直すことでレスポンスに優れ、引き締まったサウンドの再現を可能にしているが、ウーファーはさらにサラウンド(振動板周辺のエッジ部分)の素材の剛性を高めて、低音域の再現能力の向上を促している。

 前作QシリーズでもUni-Qドライバーに採用された「タンジェリン・ウェーブガイド」が、高音域のレスポンスの改善と拡散性の改善に大きく貢献していたが、このモデルではさらに改良を積み重ねることで、質感の向上にもこだわったのである。

 タンジェリン・ウェーブガイドの原点となる背圧を逃がす技術は、2008年に発売された超弩級モデル「MUON」(ミューオン)の設計時に考案されたものだ。ツィーターのバックチャンバーを長く取り、ミッドレンジのコーンのカーブとツィーターの襞を合わせこむことによってスムーズな再現力を得ることに成功している。XRシリーズから採り入れたこの技術は、元々はツィーター用のプロテクションからヒントを得たというが、まさか保護用のカバーが音質を良くするために役立つとは……、良い音を求める彼らの姿勢がなせる業(わざ)といってもいいだろう。タンジェリン・ウェーブガイド方式は、音の波がきれいに広がっていくため、ミッドレンジとのつながりも改善されるが、そうした部分にも今回の改良ではちゃんと効果が現れている。

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