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進行する映像と音のハイレゾ化、有機ELへの流れも明確に――IFA振り返り麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/4 ページ)

» 2013年09月30日 10時35分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 独ベルリンで9月6日から11日まで開催された世界最大級の家電展示会「IFA 2013」。年々規模を拡大し、今年は出展社が1493へと拡大(昨年は1439)、6日間で累計24万人が来場したという。毎年、取材のために現地を訪れるAV評論家・麻倉怜士氏に今年のトレンドを聞いた。

IFAの会場には新しいコンベンションセンター「ベルリン・シティ・キューブ」が建設中。来年4月完成予定だ

――今年のIFAはいかがでしたか

麻倉氏: 私はここ数年、開幕前日にパイオニアのイベントがあってプレスデーに出席することができなかったのですが、今年は久しぶりにプレスデー初日から濃密に、じっくりと取材することができました。

  IFAは、1月に米ラスベガスで開催される「International CES」に比べると一般の来場者も多いのが特長で、24万人の来場者のうちトレードビジターは14万2000人。残り10万人近くは一般の来場者です。つまり家電好きなベルリン市民ですね。また海外から来る人も今年は4万6000人まで増えました。

 出展社が増えたこともあって、すでに会場の「メッセ・ベルリン」は満杯。今、その南側に「ベルリン・シティ・キューブ」という新しいコンベンションセンターを建設しているので、来年にはさらに大きくなったIFAが見られるでしょう。

 さて、IFAは欧州地域だけでなく、世界の家電のトレンドを示す展示会に成長しました。年初のInternational CESは“最先端技術”展示会の色合いが濃いのですが、IFAは製品のトレンドを探る上で重要な展示会です。9月という時期も、クリスマス商戦に向けた商談の場として、ちょうど良いタイミングですから、各社のブースも半分は商談スペースにさかれていました。

――どのような製品トレンドが見えましたか?

麻倉氏: 1つは、映像と音のハイレゾ化です。4Kテレビに見られる映像のハイレゾリューション化(高解像度)は当たり前になりつつありますが、先日国内でも発表したように、ソニーは「ウォークマン」を含めたホームオーディオ分野でハイレゾ化を進めようとしています。

 昨年までのIFAでオーディオのことを語る大手メーカーはほとんどありませんでしたが、今回は違います。しかもメジャーが本格的にハイレゾを手がけるのですから、いよいよ“ハイレゾ”という言葉も定着しそうですね。もう1つは、テレビ分野で有機ELへの流れが明確になったことです。

――ソニーは多くの製品をハイレゾ対応にしました

麻倉氏: そうですね。ウォークマンの「NW-ZX1」と「F880シリーズ」は最大192kHz/24bitのPCM音源に対応しました。さらに、リニアPCMレコーダーの「PCM-D100」はDSD録音まで対応。HDDプレーヤー「HAP-Z1ES」「HAP-S1」、USB-DACアンプ「UDA-1」は、もDSD再生までサポートしています。一方でヘッドフォンやスピーカーでもハイレゾ音源を前提とした広帯域再生を目指した製品が登場するなど、幅広い製品カテゴリーで一気に対応を進めています。

ソニーブースにはハイレゾ対応ウォークマンやHDDプレーヤーがずらり

麻倉氏: ソニーは大きな会社ですので鈍重な部分もあります。SACDのように、早めに手がけて「ダメだ」と思うと手を引いてしまい、“おいしいところ”を他社にとられてしまうこともあります。そのためか、最近は新しいことに対して慎重になる傾向も見られますが、今回は平井一夫社長自らハイレゾを推進しているようです。IFAのラウンドテーブル(報道関係者との会談)で話を聞いたところ、「耳への心地よさはクラウドにはいかないので、がんばります」と話していました。これはテレビの4K化ともリンクした動きといえます。

――気になる製品はありますか?

麻倉氏: HDDプレーヤーです。ソニーは、2007年に「NAC-HD1」というHDDオーディオレコーダーを発売しました。これは、CDドライブやFMチューナーを内蔵し、非圧縮(リニアPCM)でリッピングやエアチェックができるというもの。独自の「12音解析技術」により、エアチェックのトークと音楽を自動的に切り分けたり、HDD内の楽曲を整理するといった機能を持っていました。エアチェックといえば、昔はポーズボタンを必死で押していたものですが、この製品は自動的に楽曲を切り出すという高い利便性を持っていました。

2007年に発売した「NAC-HD1」(左)。今回はES型番のHDDプレーヤー「HAP-Z1ES」も登場(右)

 その「NAC-HD1」と同じ開発者が新しいHDDプレーヤーを担当しました。音源こそネットワーク配信で届きますが、プレーヤー内蔵のHDDに楽曲をため込むという発想は同じ。またDLNAなどのネットワークオーディオはユーザーにもある程度のITリテラシーを求めますが、今回のHDDプレーヤーでは、PCをうまく利用して自動的に転送する仕組みを作っています。ネットワークの知識があまりない人でも使いこなせるという利便性を持っています。

 さらに興味深いのは、HDD込みで音作りをしていることでしょう。音の良いHDDを選び、いかに振動を抑え、ネットワークとの相性も考えて高音質部品を選別しています。つまりオーディオ的な観点でトータルに音作りされたプレーヤー。タブレットによる快適な操作やデザイン性なども含め、“ホームオーディオの王道”にいける製品だと感じました。

 大きな問題は、「HAP-Z1ES」の場合、入ってきた音源が例えリニアPCMであっても強制的にDSDに変換されてしまうことです。「俺はDSDのまったりとした音は嫌いだ。だから明快でくっきりと輪郭が立つリニアPCMにしたのだ」というアーティストがいたら、その音楽性はどうなるのでしょう。

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