オーディオシステムの核となるスピーカー、だからこそスピーカーは慎重に選びたいし選んだらしゃぶり尽くすくらいの気構えがほしいですね。こんなことを言うと、オーディオってとても難しく取られそうだが、そうではなく、注意深くセッティングし、アンプやソース機器にまで心を砕くことで、本当に楽しく未知なる世界が拓かれる。
とはいっても、あまたあるスピーカーの中ら一品を探し出すのは容易なことではない。そこで今回はぼくの最近のお気に入りの1つ、エラックの「BS-263」を紹介したいと思う。
ドイツ北部デンマークとの国境に近いキール市に本拠地を構えるエラックは1980年代からスピーカーの開発に着手した。今では多様なラインアップを擁し、幅広いオーディオファンのニーズに応える。そしていずれのシリーズも丁寧な物作りがなされ鳴りっぷりの良さを備えていることが、一番の魅力だ。
昨年エラックは、「200ライン」の上位シリーズである「300ライン」のリニューアルを行った。彼らは常に最新の技術を採り入れることで魅力あふれるスピーカー作りをおこなってきたが、この春ついに最後まで残されていた200ラインが一新されることになったのである。
200ラインはエラックの中でも屋台骨を支える中堅のシリーズだけに、生半可な改善では彼ら自身納得のゆくものではなかった。それだけに満を持しての発売といってもいいだろう。実際エラック製品の輸入代理店、ユキムのプレス資料によると、前昨「240BE」シリーズの完成度が高かったため、新製品のリリースまでに時間がかかったと記されている。
「BS-263」はモデル名からも分かるように、BS=ブックシェルフの略で本棚にも設置できるという意味を表している。ようするにコンパクトにまとめた扱いやすいスピーカーということだが、このスピーカーの本来の能力を引き出したいとするなら、本棚ではなく専用のスタンドもしくは音響的に正しい理論で作られた汎用のスタンドに載せ、周囲の空間を十分に確保した場所に設置してほしい。そうすることでステレオイメージの豊かなサウンドを再現することができるからだ。
ぼくがブックシェルフ型のスピーカーを薦める理由はまさにこの点にある。もちろんフロアスタンディング型のスピーカーであっても良く作り込まれた製品ならいずれ劣らぬ性能を示すが、ハンドリングしやすい点でブックシェルフ型は有利である。
「BS-263」の一番の大きな変更点は、今やエラックの顔となっているJET型のツィーターが「JET III」型から「JET V」型に換装されていることだ。V型は上位機のモデル用に開発されたユニットなのでコストアップを伴う。にもかかわらず彼らがこうした選択を行ったのは、240BEシリーズのクオリティーを超えたいという強い思いがあったからだ。
JET型の特徴はアコーディオン状のプリーツにアルミを蒸着し、これをボイスコイルとして使っていることである。ここに電気信号を流すと襞が開いた時に空気を吸入し、圧縮すると音響信号を放射する。エアー・モーション・ドライブとも呼ばれるこの方式はトランジェント特性に優れているため音の立ち上がりと解像力に優れるという特徴を備えている。
そしてJET V型はJET III型よりさらにアルミのパターンを細かくすることで表面積を20%増加させ能率とレスポンスを改善した。またV型ではネオジウムの磁気回路を強化して一段とドライブ能力を高たこともポイントである。製造工程ではこの振動板を1/100ミリ単位の精度で折り曲げるが、機械化は一切なく、手織りで丹精込めて作り上げられていることにも驚かされる。
JET型のツィーターとともに前作「BS-243BE」から「BS-263」への変更点として注目されるのが、エラック初のラウンドフォルム形状のエンクロージャーの採用である。リアバッフルに向けてアールを付けたことで回折現象が抑えられスムースな音の流れを獲得することができるのだ。しかしながら成形が難しくなるため、生産上の効率は下がるが、エンクロージャーの剛性感とより深い音場の再現力を求めて彼らはこうした作りに踏み切ったのである。
ウーファーに関しては、十分な性能が備わっているとの判断から、前作と同じ15センチ口径のユニットを採用した。このウーファーにはクルトミューラー製のコーン紙にクリスタルラインと呼ぶ加工を施したアルミニウムの振動板を貼り付けた「AS-XRコーン」が用いられている。こうして両者の特性を最大限に引き出すことで、振動板の剛性を高め固有の共振を低減して鳴りっぷりの良さを下支えしている。
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